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【識者の眼】「私も死ぬ時は家で」垣添忠生

No.5011 (2020年05月09日発行) P.26

垣添忠生 (日本対がん協会会長)

登録日: 2020-05-07

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日本は多死社会を迎えている。2018年の死者総数は約136万人。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる25年には約152万人。そして40年には約167万人に達する見通しだ。

多死の原因はもちろん、人口の高齢化にある。2018年の平均寿命は女性87歳、男性81歳。終戦直後の1947年には女性54歳、男性50歳だった。この約70年間に寿命は30年以上も伸びた訳である。

1950年頃、日本人の約8割は自宅で亡くなっていた。国民皆保険制度が導入され、76年にはそれが逆転し、現在は約7割が病院で亡くなっている。厚生労働省の調査によれば、約6割の人が自宅で亡くなりたい、と希望しているのに、「家族に迷惑をかけたくない」「医療面の対応が心配だ」として現実には病院死を遂げている。しかし、このままでは、真に救急医療が必要な心筋梗塞や脳卒中の患者などが入院できない事態が生じかねない。

国はこの事態に対処するため、「地域包括ケア」を導入し、高齢者が住み慣れた地域で自立して生活できるように、医療のみならず、介護・予防・生活支援を一体的に提供しようと務めてきた。自治体と地区医師会が連携し、住民の要望を聞き、それに応じたサービスを提供する訳だが、その実現の様子は日本全体をみると充実度にかなりの地域差がある。

私自身、13年前に4ミリで発見した妻の小細胞肺癌を治すことができず、自宅で妻を看取った。満足気に亡くなった妻の様子から、私も死ぬ時は家で、と思い定めている。高齢単独所帯の典型の私がそれを実現するためには周到な準備が必要である。

また、在宅医療は、医師や看護師、介護福祉士、ケアマネジャー、薬剤師、歯科医師、管理栄養士、理学療法士など、実に多くの職種の人たちが関わる、多職種連携事業のさいたるものともいえるだろう。その中核となるのが医師と行政の連携といってもよい。

日本医師会は2018年9月、「国際在宅医療会議」を開催した。韓国やシンガポールからの報告も交えて課題の討議がされた。高齢化の先頭を走るわが国の、在宅医療に対する取り組みを世界は注視している。

垣添忠生(日本対がん協会会長)[在宅医療の大切さ]

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