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【識者の眼】「新型コロナウイルスへの対応からみる医療機関の病床機能と病床数」小林利彦

No.5011 (2020年05月09日発行) P.24

小林利彦 (浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)

登録日: 2020-04-28

最終更新日: 2020-04-28

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日本では病院の開設者が民間(医療法人ほか)であるものが全体の7割前後を占めており、一施設あたりの病床数は民間において少ない傾向にある。また、一施設あたりの病床数が200床未満である病院が全体の半数を、300床未満の病院が8割を占めている。その一方で、国立大学法人や私立学校法人、国立高度専門医療研究センターの一施設あたり病床数は500〜700床規模である。

地域における医療機関の病床機能については、医療法で定める「一般病床」「療養病床」「精神病床」「感染病床」「結核病床」という病床分類や、地域医療構想でいう「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」という4種の病床機能だけでなく、病院の病床数規模がその施設で担うことができる診療機能に影響するものと考える。実際、より高度な医療を行うにあたっては、先進的な医療機器の整備とともに、それを取り扱う医療従事者の数が多く必要になる。しかし、本邦では、病床数(患者数)あたりの医療従事者数は、一施設あたりの病床数が100〜150床で最も少なく、医師の常勤比率も200床未満では70%を切っている。その理由として、日本の医療保険制度では、中小規模の医療機関への診療報酬手当が比較的低く設定されていることがある。また、中小規模の病院は民間施設であることが多く、設備投資などには慎重であるほか、対象とする診療領域においても採算性を優先する傾向が強いということもある。

平時であれば、高度急性期の診療は病床数が多くICUのある公的医療機関で行い、回復期治療はリハビリ施設で、療養的な対応は中小規模の慢性期施設でといった機能分担が可能である。しかし、今回の「新型コロナウイルス感染症」のように、基礎疾患の重症度等でなく感染症への集中管理需要が問題となると、病床数が少ない施設では対応が困難である。その結果、大規模病院で本来担うべき高度急性期需要に十分対応できず、院内感染などとも相まって、いわゆる「医療崩壊」という様相をきたしやすい。

一般に感染症患者には個室管理やコホーティング対応が望ましいが、中小規模の病院がその役割を担うには、大規模病院等からの人的派遣が必要となる。ただし、民間の中小規模病院では直近の安定経営も重要であることから、必ずしもその種の役割を担うことはできない。現在、ホテルでの軽症・無症状患者への対応が進められているが、一定のリスクを背負いつつ、無限ではない医療従事者を分散させる結果ともなっている。

小林利彦(浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)[地域医療]

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