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【識者の眼】「新型コロナウイルスと精神科医療(2)─クラスター発生事案が増えている」平川淳一

No.5011 (2020年05月09日発行) P.21

平川淳一 (平川病院院長、東京精神科病院協会会長)

登録日: 2020-04-27

最終更新日: 2020-04-27

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4月に入り、精神科病院でのクラスター発生事案が増えてきている。閉鎖病棟に入院している患者の多くは、高齢で糖尿病や喫煙によるCOPDなどの合併症を抱える。精神症状も重く、手洗いやうがい、咳エチケットなど清潔保持もなかなかできない。他患に感染しないように自分の部屋にいるように説明してもすぐに出てきて歩き回ってしまう。このようなところに感染者が出れば、病棟丸ごと汚染し、大変なことになってしまう。また、医師の数も少なく、1人の医師が多くの病棟に出入りするため、医師の感染は病院すべてをレッドゾーンにする。そもそも精神科医の多くは点滴もできないほど身体的な管理は苦手であるため、感染防御については学生並みで、1から教育が必要である。さらに、精神科病院は病院ごとに、検査室、CTやXPなどの設備や人員配置がまちまちで機能に大きな幅があることも課題であり、1つのマニュアルでは対応できない。

このようにリスクの高い病棟が敷地内にある中で精神科救急をやらなければならない。先日、某県で措置入院した患者が、入院後に発症しクラスターが発生したと報道された。感染源は警察官の可能性が高いという。暴れている患者に複数の警察官で対応する場合、ソーシャルディスタンスは難しい。簡易のビニールカッパでは引きちぎられる。取調室などは3密(密閉、密集、密接)そのものであり、警察から病院までの移送も3密である。

また、入院経過の中で感染するため、入院時には検知できない。措置入院は県の指定病院が当番制で引き受ける仕組みになっているが、指定病院は脅威を感じ、拒否しはじめている。路上で倒れていて発熱しているようなケースは、恐ろしくて受け入れられない。もし、強く疑われる入院患者が出ても保健所はなかなかPCR検査をしてくれない。やっと検査してもらっても、結果は数日かかるため入院を継続させざるを得ない。数少ないN95マスクや防護服は1日で消えてしまう。また、結果待ちの間に症状悪化した場合の搬送は、救急車には断られ、保健所も陽性にならないと搬送しないため、どうにもならなくなる。さらに陽性の場合は精神疾患があるということで受け入れ先の病院は見つからない。そのうえ、措置入院の場合は地方自治体がその責任を持つため、逐一、行政の指示を待たなければならない。法的にも、精神保健福祉法での隔離拘束にも感染症法との齟齬があり、命と人権のどちらが優先するか苦慮する。

一方、濃厚接触したスタッフは自宅待機になるが、家族から拒否され、ホテルは断られ、自家用車に車中泊をしている人もいる。地獄である。我々のように還暦も過ぎ、生殖能力に無関係な人間には素早くアビガン投与ができるようにならないかと願うものである。

平川淳一(平川病院院長、東京精神科病院協会会長)[新型コロナウイルス]

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