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【識者の眼】「看護師は過重労働の運命なのか」上田 諭

No.5005 (2020年03月28日発行) P.53

上田 諭 (東京医療学院大学保健医療学部教授)

登録日: 2020-03-25

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人口8000人余りの東京都の離島・八丈島で唯一入院対応可能な医療機関である町立八丈病院が危機的状況になっている。深刻な看護師不足だ。

昨年11月、町議会が開催した議員と住民との懇談会で、複数の町立病院看護師が過酷な実態を吐露した(2019年12月13日付地元紙「南海タイムス」が報道)。52床の病棟で25人の看護師(正職員)定員に対し勤務しているのは19人。そのうえ、3月までに3〜4人が退職予定だという。

報道や病院ホームページによれば、同院の常設の診療科は、内科、外科、産科など5科。人工透析ベッドもある。精神科、皮膚科、眼科などは非常勤医で、本土からの出張診療だ。文字通り、島民の健康と生命を支えている。

看護師の勤務は、各科外来と1つの病棟のほか、夜勤では病棟業務の合間に救急受診やお産の対応もある。通常でも勤務は楽とはいえないが、看護師数が少ないことで勤務は過酷になっている。日中の勤務が終わらずほとんど超過勤務(残業)になる。通常なら月に計9回である夜勤(準夜勤、深夜勤)が10〜11回に増え、休日も減っている。「このまま人数が減れば、休みが1日もとれなくなる」と看護師らは訴える。

病院運営の重大な問題が直視されず、看護師の身を削る過重な努力によってやりくりされる─こうした現実はこの離島の町立病院に限らない。都内の総合病院でも「看護師が定数に足りず、仕事量は増えるばかりで毎日残業が当たり前」との訴えはあちこちで聞かれる。

病棟を日々守り維持しているのは、誰でもない看護師である。看護師の観察と動きと配慮が医療の質に大きくかかわる。それは患者の病状や生活の質、ひいては生命に直結する。外来や手術で多忙な医師は、ふだん病棟にいないことのほうが多い。医師がしばらく不在でも病棟は十分回るが、看護師がいなければ半日だってもたない。

病院の存立にかかわる問題のしわ寄せを看護師に押し付けたまま放置するなら、いつか看護師の「反乱」が起きる。

上田 諭(東京医療学院大学保健医療学部教授)[地域医療]

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