株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:『つくる/なる』(丸山真男)の区別から考えた対策」堀 有伸

No.5005 (2020年03月28日発行) P.53

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2020-03-17

最終更新日: 2020-03-17

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

私は、日本人の意識は深層において「右より」と「左より」の意識に分裂しているという仮説を持っています。今回の考察では、「右より」の意識における「前近代的、共同体的」側面と、「左より」の意識における「近代的、個人的」側面を踏まえた上で、丸山真男の日本人論にあった「なる(生成。四季が自然にめぐってくるようなイメージ)/つくる(制作。人為的につくられたもの、近代や自然科学)」の区別を、新型コロナウイルス感染症対策との関係で考えてみます。

日本人は「なる」に適応し、「つくる」方針を採用することにはとても慎重です(ただし、一旦「つくる」スイッチが入ると猛進するという特徴もあります)。今回の感染症対策でも、「ウイルスに対して多数の検査を行って実体を把握するなどの対策を徹底的に実行し、その封じ込めを目指す」という「つくる」精神に寄った戦略と、「感染力は強いが致死率が限定されているウイルスと共存しつつのコントロールを目指す」という「なる」精神に寄った戦略では、無意識的に多くの日本人が後者を選択していたのではないでしょうか。

感染力が強く制御の難しいウイルスと徹底的に戦わずに状況に合わせる日本の戦略は、ある程度奏功しているように思えます。しかし、問題点もあります。世界全体における新型コロナウイルス感染症への取り組みという視点では、日本からの貢献は少なく、「外国の基礎研究にただ乗りしている」という状況もあるのです。

もちろん「パニックや医療崩壊を防ぐ」ことは重要です。望まれているのは、高次の水準での「なる」精神と「つくる」精神の統合です。「なる」精神が優勢な日本社会にとって、「意図的に決断する」などの「つくる」精神を適切に包含することは、一つのチャレンジだと考えます。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[新型コロナウイルス感染症]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top