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【識者の眼】「子どもの起立性調節障害はなぜ遷延するのか─身体不活動による『デコンディショニング』の影響」石﨑優子

No.5000 (2020年02月22日発行) P.50

石﨑優子 (関西医科大学小児科学講座准教授)

登録日: 2020-02-20

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朝起きづらく学校に行けない子どもの中に、「起立性調節障害(OD)」児が多いことが知られるようになった。テレビ番組で何度も取り上げられているこのODとはどんな病気なのか。20年以上の診療経験のある小児科医であれば、身長増加のスパートがかかる時期の女児が春先に朝起きづらくなったり、朝礼で倒れたりする「起立性低血圧」をご存じであろう。さらにかつての起立性低血圧は昇圧薬の処方で速やかに良くなったのに、昨今のODは血圧も下がらないのに自覚症状が多彩で不登校が長引くことを不思議に思う方も少なくないのではないか。日本小児心身医学会の診断基準によれば、小児のODは成長期の自律神経の不調により起立時の循環調節が障害される状態であり、そのサブタイプに起立性低血圧や血圧低下を伴わずに頻脈のみを呈する体位性頻脈症候群がある。

では従来、著しい成長に伴う一過性で予後良好な自律神経の不調と思われていたODがなぜ、最近昇圧薬にも反応せず不登校が長期化するようになったのか。その理由の一つにデコンディショニング(Deconditioning)が考えられる。デコンディショニングは廃用症候群に近い概念であり、身体活動量が低下すると循環器系デコンディショニングによって心臓容積が減少、起立耐性の低下が生じる。さらに運動不足による筋力低下も起立耐性の低下を悪化させる。有名なのは宇宙の微小重力環境におけるデコンディショニングで、宇宙飛行士が地球に帰還した直後の起立失調が知られている。この起立耐性の低下は外傷による安静や受験生が急に運動を止めることでも起こりうる。最初はOD症状により学校に行きづらくなり身体活動量が低下した場合にも同様である。

ならば不登校が遷延するOD児への対応として必要なのは何か。海外では各種のトレーニングが推奨されている。本邦でも子どもを信じて待つのではなく、親子で歩いてみることを奨めたい。

石﨑優子(関西医科大学小児科学講座准教授)[小児科][不登校]

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