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【OPINION】東京オリンピック等の国際的な イベントを想定した健康危機対策

No.4787 (2016年01月23日発行) P.15

和田耕治 (国立国際医療研究センター  国際医療協力局)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

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  • 我が国においては、今後、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック等の国際的なイベントを控えている。こうした、国際的なイベントにおいて発生しうる健康危機に対しては入念な対応が求められる。国際的なイベントにおいては、多くの人が訪日することから海外からの感染症の流入といったリスク以外にも、ある場所におけるマスギャザリング(集団形成)によるリスクといったことも想定しなければならない。本稿では、これまでの諸外国のオリンピックなどの国際的なイベントでの経験のレビューを行い、我が国でのリスクアセスメントならびに必要な対策について概説する。

    ロンドンオリンピックでの教訓

    ロンドンで2012年に開催されたオリンピック・パラリンピックにおいては推定1100万人の観客が訪れた1)。開催の7年以上前から健康危機対策を計画し、国内はもちろんのこと、WHO等の国際機関と連携を行い、リスク評価ならびに対策が検討された。特にサーベイランスの強化には力が入れられ、既存のシステムの分析と報告を週毎から日毎とし、オリンピック会場での受診データの追加などがなされた。死亡率データの日毎の分析、集中治療室の報告システム、症候群サーベイランス(一般開業医、救急)が行われた。
    大会期間中に様々な事例の報告がされたが、英国健康保護庁の状況報告に記載された疾患は、例年の夏期と同様に、胃腸炎(食中毒)とワクチン予防可能な疾患(水痘)、呼吸器(レジオネラ)であった。これらは平時からの公衆衛生対策によって対応された。選手に関連する事例については、大会組織委員会と緊密に連携した。なお、大きな問題はなかったものの、風評(うわさも含めて)の管理には多くの時間を要したとしている。
    Kononovasら2)は、ロンドンオリンピックに関連した担当者らのインタビューを基に医療体制についての教訓を次のようにまとめている。
    ①早めの計画と関係者間の信頼関係作りによりそれぞれの役割を明確にし、その責任と期待される活動に合意する。
    ②選手や関係者の適切な医療提供体制を確保する。オリンピック会場の内部の医療需要がほとんどであり、外部の医療機関では明らかな増加は見られなかった。
    ③健康リスクに備える。消化器系疾患(食中毒)が最も起こったが、発生率はとても低い。
    ④安全(治安)リスクに備える。最も多くのリソースを必要とする。
    ⑤オリンピックに関わる人の採用と会場出入りなどの許可の認証は最も複雑な管理タスクであり、遅れや間違いが起こりやすい。
    ⑥パラリンピックはオリンピックと比較すると規模は小さいが、特別な医療体制が求められる。

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