医療事故調査制度について日本医師会の城守国斗常任理事は23日の日医代議員会で、調査報告書が訴訟に用いられた事例が存在するとの認識を示した上で、調査報告書が個人の責任追及につながらないよう、標準的な調査手法を確立するための検討を会内の委員会で行っていることを説明した。
稲野秀孝氏(栃木)は、医療事故が発生した医療機関や医療事故調査・支援センターが作成する調査報告書が個人の責任追及に利用される懸念を払拭するための制度の改善を日医執行部に求めるとともに、調査報告書が訴訟に利用された件数について質問した。
城守氏は、調査報告書が訴訟に用いられた件数について「正確な実数は制度の秘匿性から把握しにくい」としながらも「10件近くはあると聞いている」と回答。
城守氏は事故調の意義について「予期せぬ死亡の原因を究明し、再発防止策を検討することで医療安全の向上を図るもの」と強調する一方、「個人の責任追及につながるとの懸念は、ほぼすべてのドクターが感じているのではないか」と指摘。「この制度の正確な理解と周知が医療関係者に対してもまだできていないことが、間違った理解、運用につながると懸念している」と述べ、国民と医療関係者に制度の意義を正確に伝えていく方法について、厚労省と制度を運営する日本医療安全調査機構と検討していることを報告した。
さらに、「責任追及的な報告書は制度の根幹を揺るがすことに直結する」との危機感を示し、現在、会内の医療安全対策委員会で、調査報告書が個人の責任追及につながる内容にならないよう、標準的な調査の手法を確立するための検討を行っていることを紹介。全国的に均質化した標準的手法で調査することにより、「仮に調査報告書が裁判に利用されても、責任追及の証拠にはならず、法曹界とは違った観点で、医療者として原因究明を行うという制度の建て付けを生かせる」とした。
また、制度の改善に向けては、城守氏が研究代表を務める厚生労働科学研究班で昨年度から支援団体の実態調査を行い、問題点の洗い出し作業を行っていると説明し、「政策提言に直結した成果が出せるよう研究を進めていく予定」と述べた。