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前立腺がんとイソフラボン摂取との関係は?

No.4940 (2018年12月29日発行) P.61

澤田典絵 (国立がん研究センター社会と健康 研究センター予防研究グループ室長)

津金昌一郎 (国立がん研究センター社会と健康 研究センター長)

登録日: 2018-12-26

最終更新日: 2018-12-20

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1つの食品と特定の疾患との関係の探索は,被験者の他の食品の摂取との絡み合いなどの問題をクリアできないため,困難であることは承知しています。
しかし,国立がん研究センター・津金昌一郎先生の調査研究要約に「前立腺がんについては,イソフラボン類の摂取は前立腺内にとどまる限局がんに予防的であったが,みそ汁の摂取が前立腺を越えて広がる進行がんのリスクを上げるという,複雑な結果となった」〔『なぜ、「がん」になるのか? その予防学教えます』(西村書店,2009)〕とありました。この点についての最新の知見とイソフラボン摂取についての考え方のご説明をお願いします。

(大阪府 K)


【回答】

【限局前立腺がんには予防的で,進行前立腺がんではリスクが高まるという研究結果がある】

イソフラボンは,女性ホルモンであるエストロゲンと化学構造が類似しているため,エストロゲン受容体に結合して作用することが知られています。その作用は,個体の性ホルモン濃度により異なり,エストロゲン濃度が高い環境では,本来結合するはずのエストロゲンの結合を妨げるために抗エストロゲン作用を示し,エストロゲン濃度が低い環境では,イソフラボンがエストロゲン受容体に結合するためにエストロゲン作用を示すと考えられています。男性では,イソフラボンのエストロゲン作用のほか,発がんに関わるチロシンキナーゼの作用や血管新生を阻害することなどにより前立腺がんを予防するということが,多くの実験研究で報告されています。

一方,前立腺がんの病期は,前立腺内にとどまる限局がんと,前立腺を越えて広がる進行がんにわけられます。多くの疫学研究で,食事や生活習慣の限局がんと進行がんに与える影響が異なる可能性が報告されていますので,前立腺がんの予防要因を明らかにするためには,病期をわけて解析することがより重要となります。

疫学研究では,イソフラボンは前立腺がんに予防的に作用する,という報告が多くありますが,イソフラボンと前立腺がんの関係を,病期でわけた報告はそれほど多くはありません。その中で,日本人を対象とした多目的コホート研究1)では,イソフラボン摂取は限局前立腺がんには予防的でしたが,進行前立腺がんではむしろリスクが上がる,という複雑な結果となりました。同様に,日系米国人を対象とした研究2)や,欧州で行われた研究3)でも,イソフラボンや大豆が限局がんと進行がんのリスクに与える影響が異なるという類似の結果がみられています。

イソフラボンが進行前立腺がんのリスクを上げる理由については,よくわかっていません。イソフラボンの予防的効果のメカニズムの1つとして,前述のように,エストロゲン受容体を介した作用が考えられていますが,進行前立腺がんでは,その受容体が少なくなることが報告されていますので,進行前立腺がんではイソフラボンは作用しないことが考えられます。また,大豆に含まれる他の栄養素が進行前立腺がんのリスクを上げることに関係している可能性や,多目的コホート研究で解析された進行がんの症例数が多くはなかったために得られた偶然の結果の可能性も考えられますので,今後の他の研究での確認が必要です。

また,イソフラボンが限局前立腺がんに予防的だとしても,これまでの研究では,サプリメントでイソフラボンを多く摂取することによる効果や,イソフラボンをどの時期にどれくらいの期間摂取すればよいのか,ということは明らかではありませんので,今後の研究でのエビデンスの蓄積が必要です。

【文献】

1) Kurahashi N, et al:Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2007;16(3):538-45.

2) Nomura AM, et al:Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2004;13(12):2277-9.

3) Travis RC, et al:Cancer Causes Control. 2012;23 (7):1163-71.

【回答者】

澤田典絵  国立がん研究センター社会と健康 研究センター予防研究グループ室長

津金昌一郎  国立がん研究センター社会と健康 研究センター長

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