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【OPINION】胃がん対策の革命的変化となったIARCの “ピロリ菌除菌による胃がん予防戦略”

No.4730 (2014年12月20日発行) P.14

浅香正博 (北海道大学大学院医学研究科がん予防内科学講座特任教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-15

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  • 2013年12月、フランスのリヨンにある世界保健機関(WHO)のがん研究機関(IARC)で“ピロリ菌除菌による胃がん予防戦略”と題した会議が招集された。IARCから11名と、外部から招かれた19名の専門家によって3日間にわたり、①国・地域ごとの胃がん予防に向けての取り組み、②ピロリ菌除菌による健康への効果と影響、③ピロリ菌除菌の費用対効果およびピロリ菌スクリーニング・治療計画の実現可能性、④胃がん減少を期待し現在行われているか計画中のピロリ菌治療の臨床研究について検討を行った。その成果は190頁の報告書にまとめられ、2014年9月24日、世界に向けてプレスリリースが行われた。私はこの会議に参加する機会を得たので、報告書の内容と議論の模様を紹介する。

    地域別の胃がん対策を討論

    IARCは1994年、ピロリ菌を明らかな発がん物質(Group1)に指定したが、今回はそれ以来20年ぶりに開催された会議であった。私の元に招待状が届いたのは8月であり、初めは信じられない気持ちであったが、責任が重大であるとの印象が強かった。
    IARCはがん研究に関する総本山であり、世界中のがん情報が集まるところである。IARCの最も重要な仕事の一つは発がん物質の指定であり、IARCで指定されたものは直ちに各国政府に伝えられ、それに基づいて各国の政策が決定するのである。昨年はPM2.5を明らかな発がん物質に指定し話題になったばかりである。なぜ私が専門委員として選ばれたのかは不明であったが、ともかく光栄なことであるのは確かなことであった。胃がんは東アジアに多いので、私のほか、中国、韓国、台湾からも選ばれており、バランスの取れた選考であると思われた。
    12月4日、IARC本部(写真)に着いた。このビルの1階の会議室で3日間、ピロリ菌と胃がんに関するIARCの作業部会が開催された。1994年のIARCの会議でピロリ菌を明らかな発がん物質と認定した中心人物である米国ヴァンダービルト大のコリア教授は88歳になっていたが大変お元気であり、胃炎の進展とピロリ菌に関する基調講演をしてくれた。またピロリ菌と胃がんの関わりは1991年、異なった地域からの疫学前向き研究で初めて明らかにされたのであるが、その時に米国のデータを発表したスタンフォード大のパーソネット教授と英国のデータを発表したIARCのフォールマン教授が今回もそろって参加していた。ピロリ菌と胃がん研究ではレジェンドともいえる3人の教授の参加のもと、会議は始まった。
    フォールマン教授から胃がんの最新のデータが公表された。2012年、世界の胃がんの発生数は95万2000人であり、中国、日本、韓国の東アジア3国で約60%を占めている。死亡者数は72万3000人であり、発生数の約76%が亡くなっている。胃がん発生率は発展途上国が70%を占め、男女比は2:1で男に多く発生する。
    地域別の胃がん対策が今回の会議のハイライトであり、討論にも十分時間が割かれた。欧米諸国は胃がん発生率が少ないために、政府が本格的に対策を進める状況にはなかった。胃がん撲滅への本質的な対策を訴えたのはわが国と韓国のみであった。

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