鉄剤投与前に鉄欠乏性貧血の確定診断がなされているか確認する必要がある
服薬コンプライアンスの不良のため難治性鉄欠乏性貧血に陥っていることがある
鉄を補充していても鉄漏出が上回る場合には貧血は改善しない
胃前庭部,小腸および結腸の毛細血管拡張症は鉄欠乏性貧血の原因となる
ヘリコバクター・ピロリ菌の感染による萎縮性胃炎では,除菌によって貧血の改善が期待できる
ミュンヒハウゼン症候群という精神疾患では,隠れた自己瀉血のためデータ変動の説明困難な鉄欠乏性貧血を呈する
TMPRSS6の先天的な遺伝子変異による鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(IRIDA)という疾患が見出された
わが国においては,小球性貧血を呈する貧血性疾患の大部分は鉄欠乏性貧血である。しかしながら,小球性貧血であっても鉄剤が奏効しない場合や,鉄剤の投与を続けてもヘモグロビンが正常値まで回復しないことがある。このような場合,小球性貧血の原因が鉄欠乏性貧血であることを再確認するとともに,他の貧血性疾患の合併がないか確認する必要がある。難治性の鉄欠乏性貧血の診断および治療法を理解するためには,通常の鉄欠乏性貧血について習熟する必要がある。
鉄欠乏性貧血は,小球性貧血を呈するとともに,血清鉄低下,総鉄結合能増加,不飽和鉄結合能増加および血清フェリチン値低下といった特徴的な鉄動態を示す疾患であり,これらのデータを確認することで確定診断が得られる。しかしながら,この典型的な鉄動態は,鉄剤投与後には急激に消失するため,確定診断ができなくなることも少なくない。したがって,治療の開始にあたっては,鉄欠乏性貧血の診断基準と合致していることを確認する必要がある。ヘモグロビン値の低下や血清鉄の減少を理由に鉄剤を投与してはならない。鉄欠乏性貧血の確定診断を得ずに治療を開始し,その後貧血が改善しない場合,難治性の鉄欠乏性貧血なのか,他の貧血性疾患なのか判断が困難となる。