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視覚障害と脳神経疾患(山上明子)[学術論文]

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  • 5. 脳脊髄液漏出症

    脳脊髄液漏出症は,脳脊髄液が持続的,断続的に減少することにより様々な症状が生じる。代表的な症状としては起立時に増悪する頭痛,頸部痛,めまい,耳鳴り,視機能異常,嘔気,倦怠感,疲労感など多彩な症状を呈する(表2)5)~7)。通常の頭部単純MRIでは異常が検出されないことも多く,その症状が発症契機の直後ではなく時間を経過してから出現する症例もあり,心因性もしくは非器質的症状として扱われることも少なくない7)

    脳脊髄液の減少は,造影MRIで硬膜の肥厚,脊髄MRIやMRIミエログラフィーなどで髄液漏出によって判定する。また,画像所見として異常が検出される低髄液圧症,脳脊髄液漏出症のほか,低髄液圧症や脳脊髄液漏出症の診断基準は満たさないものの,同様の臨床症状を呈し,低髄液圧症や脳脊髄液漏出症に対する治療に反応する脳脊髄液漏出症疑いがある。

    脳脊髄液漏出症および同症疑い症例でみられる視機能異常を表3に示す8)。様々な視機能異常を自覚し眼科を受診していても,眼科的な一般検査では異常がみられなかったり,視力低下や視野障害など異常が検出されても眼内および脳内にその異常を説明できる変化がなかったりするために,心因性・原因不明と診断されていることが多い。

    確かに脳脊髄液漏出症例の視機能異常は多彩で眼内には異常がなく,交通事故などの外傷後が多いので心因性と診断されがちである。眼科を受診する脳脊髄液漏出症例は比較的軽症例が多いので,眼以外の全身の症状が軽微な場合も多い。しかし,問診や眼以外にある症状から脳脊髄液漏出症を疑って専門医に紹介し,治療を行い視覚症状が軽快・消失した例も存在する。その視機能異常の発症機序についてもわかっていないが,機序がわからないものをなんでも心因性と判断してしまって病気を見逃す可能性について再認識させられる疾患である。

    【文献】

    1) 倉田 彰:知っておきたい神経眼科診療. 三村 治, 他, 編. 医学書院, 2016, p323-40.

    2)「多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン」作成委員会:多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, 2017, p174-88.

    3)中村 誠, 他:日眼会誌. 2015;119(5):339-46.

    4)Bidot S, et al:J Neuroophthaomol. 2015;35(4):400-11.

    5)嘉山孝正:脳脊髄液漏出症診療指標. 中外医学社, 2019.

    6)篠永正道:神経眼科. 2005;22:56–60.

    7)高橋浩一, 他:脊椎脊髄ジャーナル. 2015;28(8):743–9.

    8)山上明子, 他:神経眼科. 2021;38(2):162-71.

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