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[最新解説]前立腺肥大症の新しい低侵襲治療

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  • 5. 経尿道的水蒸気治療(WAVE)

    経尿道的水蒸気治療(water vapor energy therapy:WAVE)は,内視鏡下に針を腺腫内に刺入し,高温水蒸気(103℃)を噴霧する方法である。水蒸気が液化する際に放出される熱エネルギーは対流(convection)により瞬時にかつ均一に間質に拡がり,肥大組織を凝固壊死させる。同様なコンセプトのTUNAやILCPでは熱伝導(conduction)を使用しているため,加熱ムラや尿道粘膜障害などが問題であった。

    一方,WAVEにおける対流は腺腫の被膜を超えないため,尿道粘膜や移行領域を超える他領域への影響はない(図3)。凝固壊死した組織は1~3カ月かけて吸収され,下部尿路症状を改善する。わが国では,2022年9月に保険適用となった。

    1 手技

    WAVEには,高周波電流を供給するジェネレータおよび水蒸気を噴霧するための針を内蔵するデリバリーデバイスからなるRezūmTMシステムを使用する。患者を砕石位とし,全身麻酔,腰椎麻酔あるいは局所麻酔下にデリバリーデバイスを尿道に挿入して前立腺部尿道長を観察し,治療回数を決定する(たとえば,膀胱頸部から精丘までの長さが2~3cmの場合は側葉あたりの治療回数は2~3回)。

    膀胱頸部から1.0cm遠位の前立腺側葉より開始し,9秒間で0.42mLの蒸留水から作成される高温水蒸気を噴霧する。以後,精丘を越えないように1cm間隔で水蒸気を噴霧する。必要に応じて中葉にも治療を追加する。通常,手術に要する時間は10数分である。

    術後は,一過性の浮腫のため排尿困難・尿閉が生じることが多いため,前立腺体積に応じて尿道カテーテルを留置する(目安は推定前立腺体積10mLあたり1日の留置期間)。

    2 臨床成績

    REZUMⅡ試験は,年齢>50歳,国際前立腺症状スコア(IPSS)≧13,Qmax≦15mL/秒,前立腺体積30~80mL,残尿量≦250mL,PSA≦2.5ng/mLかつfPSA≧20%の197名の前立腺肥大症患者を対象に施行された多施設共同,前向き,無作為化,単盲検比較対象試験である6)。なお,中葉肥大を有する症例も組み入れ可能であった。

    被験者は,2:1にWAVE群(n=136)と対照群(n=61)に無作為化され,対照群にはシャム手術が施行された。有効性の主要評価項目は治療3カ月後のIPSSの改善度であった。3カ月後のITT解析において,IPSSはWAVE群では22.0から10.8(-11.2)に,対照群では21.9から17.5(-4.3)に改善した(P<0.0001)。5年までの長期の検討においても,IPSSのみならず,QOLスコアおよびQmaxの持続する改善を認めている7)。外科的な再治療を要した症例は5年間で6例(4.4%)であった。また,性機能にも大きな変化は認めなかった。

    3 適正使用ガイドにおける適応対象

    UroLiftと同様に,3学会合同による「経尿道的水蒸気治療に関する適正使用指針」が制定されている8)。現時点での適応対象は,手術療法が適応となる患者のうち,前立腺肥大症に伴う下部尿路症状を訴える患者で,全身状態や手術侵襲を考慮して,従来の手術療法(TURP,HoLEP,PVPなど)が困難な症例(全身状態不良のため合併症リスクが高い症例,高齢もしくは認知機能障害のため術後せん妄,身体機能低下のリスクが高い症例)に限定されている。

    前立腺体積は30~80mLを推奨しているが,中葉肥大例に対する適応制限はない。なお,実施医は企業が提供する講習プログラムを修了する必要がある。

    6. 今後の見通し

    UroLiftおよびRezūmTMとも,短期的な有効性と低侵襲性に加えて,長期にわたる治療効果と安全性の持続が得られている。したがって,全身状態不良症例,併存疾患の多い症例,抗凝固薬服用症例などへの適応が期待される。ただし,いずれの方法も現時点では前立腺体積30~80mLに適応が限られ,UroLiftにおいては閉塞性の著明な中葉肥大を有する患者に対しては推奨されない。また,前立腺の切除や核出を伴う従来の手技では,膀胱頸部が破壊されるために逆行性射精が高率に出現するが,UroLiftやRezūmTMでは膀胱頸部の破壊を伴わないために,実臨床においても逆行性射精の発現はきわめて少ないと予測される。

    米国泌尿器科学会のBPHガイドライン9)では,両者とも勃起機能や射精機能の温存を希望する症例にも推奨されているが,わが国では適応外である。一方,臨床導入が先行した米国では前立腺肥大症手術のトレンドが大きく変化しており,UroLiftやRezūmTMの台頭が推測されている10)

    【文献】

    1)舛森直哉:前立腺肥大症に対する令和の新しい治療戦略(webコンテンツ). 日本医事新報社, 2022.

    2)Sinkai N, et al:Neurourol Urodyn. 2020;39(5):1330-7.

    3)Roehrborn CG, et al:J Urol. 2013;190(6):2161-7.

    4)Roehrborn CG, et al:Can J Urol. 2017;24(3):8802-13.

    5)前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia)に対する経尿道的前立腺─吊り上げ術に使用されるUroLift システムの適正使用指針. 2022.
    https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/UroLift_use_guidance_2202.pdf

    6)McVary KT, et al:J Urol. 2016;195(5):1529-38.

    7)McVary KT, et al:J Urol. 2021;206(3):715-24.

    8)日本泌尿器科学会, 日本排尿機能学会, 日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会:経尿道的水蒸気治療に関する適正使用指針.
    https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/rezum_use_guidance.pdf

    9)American Urological Association:Management of Benign Prostatic Hyperplasia/Lower Urinary Tract Symptoms(2021).
     https://www.auanet.org/guidelines-and-quality/guidelines/benign-prostatic-hyperplasia-(bph)-guideline

    10)Cruz AP, et al:J Urol. 2022;207(5S):e654.
     https://doi.org/10.1097/JU.0000000000002597.07

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