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ベストセラーへの道─その2 いきなりの休筆[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(201)]

No.4908 (2018年05月19日発行) P.62

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2018-05-16

最終更新日: 2018-05-15

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HONZは、元マイクロソフトジャパン社長の成毛眞氏が道楽で始めたノンフィクションレビューサイトである。誘われるがままにそのメンバーになったのが、ちょうど『こわいもの知らずの病理学講義』を書き始めた頃だった。思えばこの頃、仕事一筋(主観的イメージです)から一気に不良化路線に突入していったような気がする。

その関係で、岩波新書の編集者さんから執筆のオファーをいただいた。ホンマですか?私のような世代にとって岩波新書というのは特別な存在である。その著者になるというのは、高校時代からの夢だった。まさか断るわけにはいきますまい。

引き受けた順に仕上げていくのが筋だとはわかっている。しかし、あこがれの岩波新書、優先度は別格だ。ということで、『こわいもの…』は、1章だけ書いたところでゴメンナサイしていきなり休筆に。編集の安藤さんには申し訳ないが、常識ある大学人としては、こうするしかないわな。しかし、結果としては、この選択が『こわいもの…』にとってもよかったのである。

仕事をしながらなので、なかなか筆は進まない。岩波新書『エピジェネティクス 新しい生命像をえがく』には、結局、予定をはるかに上回る2年間を費やした。

高校時代、何冊かの岩波新書に感動した記憶があるので、気の利いた高校生にも理解できるようにと、思いっきりわかりやすく書いたつもりだった。しかし、この本を読んだ知人たちからは「難しい」とか「わかりにくい」とか、ボロクソであった。

そうか、一般の人の生命科学のリテラシーはそういうものなのか。はばかりながら、思ってたより遥かに低いやんか。『こわいもの…』の内容も、当初考えていたより、うんとわかりやすくすべきだと痛感した。

HONZでのレビュー執筆もいい経験になった。どういう書き方をすればうけるかが次第にわかってきたのだ。それに、第1章の初稿を読んだ安藤さんから、おもしろいエピソードを入れるなどして、はしゃいでください、とか言われたのも大きかった。

もし、岩波新書に浮気せずあのまま書いていたら、もっと難しくて堅苦しい一般向けの病理学総論みたいな本になっていた。そしたら、決してベストセラーなどにはなっていなかったはずだ。ものごと、何が幸いするかはホンマにわからんもんです。

なかののつぶやき
「知人からは難解と不評をかこった『エピジェネティクス…』ですけど、おかげさまで、出版4年で6刷2万5300部に達しました。一般向けに書いたつもりとはいえ、かなり高度な内容まではいっているような本でこの売り上げは異例のことらしいです。まぁ、ある意味これもベストセラーですな(自慢)。大学での講義テキストに使っていただいている先生もおられて感謝に堪えませぬ」

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