西洋医学的な利尿薬は,電解質再吸収の阻害などにより,浮腫を治療する。過量に投与すれば脱水を引き起こす。下痢の患者は脱水となることがあり,五苓散は,西洋薬の無効な浮腫などに対して利尿作用のある漢方薬として用いられている。一方で,五苓散は,脱水による口渇ならびに尿利減少を主たる投与目標として,ノロウイルス感染やロタウイルス感染時の治療薬としても用いられている。下痢治療に通常は利尿薬を用いることはない。
五苓散は生体が水分過剰状態であるときは利尿作用,脱水状態の際は抗利尿作用を持ち,水分代謝の調節・恒常性の維持に関与することが動物実験で示されている1)。それゆえ,五苓散は利尿薬ではなく,「利水薬」と言われている。その作用機序は未解明であった。
近年,水分子を特異的に通す蛋白質である13種類のアクアポリン(AQP)が,哺乳類の細胞膜に見つかった。五苓散はこのAQP3,4,5などの阻害作用に関与することが解明された2)。下痢においては大腸におけるAQPの発現が関与する報告3)もあり,脱水を起こした下痢患者に五苓散を投与することが有効であることがわかってきた。
【文献】
1) 大西憲明, 他:和漢医薬誌. 2000;17(3):131-6.
2) 磯濱洋一郎:Mb Orthop. 2015;28(5):9-14.
3) 丁 宗鉄, 他:和漢医薬会誌. 1985;2(1):110-1.
【解説】
貝原志歩*1,三田知拓*1,福田枝里子*1, 馬場正樹*2,矢久保修嗣*3 *1明治薬科大学臨床漢方研究室 *2同准教授 *3同教授