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突然家族を亡くした人への心のケア[先生、ご存知ですか(1)]

No.4896 (2018年02月24日発行) P.59

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2018-02-20

最終更新日: 2018-02-20

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日常診療で、事故や自死で急に家族を亡くされたという方に接しますが、悲しみは強く、さまざまな心身症状が続くことが多いのです。過去の報告を調べると、家族が事件・事故・自死でなくなった場合は、通常ではない親族との死別であるため、一種のトラウマ体験として遺族にストレスを与え、さまざまな症状を引き起こすそうです。交通事故遺族を対象にした調査では、死別後約3年半と6年半の時点でPTSDの有病率がいずれも30%前後でした。特に、親や子の突然の死は、QOLの低下など身体的健康の低下にもつながります。また、パートナーの死後30日以内には、急性心血管イベント発症のリスクが顕著に上昇するそうです。

私は、多くの遺族の気持ちを伺いましたが、9割以上の人が、「家族を亡くした出来事を考えるつもりはないのに、ふとしたことで、そのことを考えてしまう」、「同様の事故が起こる度に、家族に起きたことを考えてしまう」、「別のことをしていても、家族に起こったことが頭から離れない」と答えられました。遺族にとっては、時が解決してくれるということはなく、悲しみは長く続くのです。

さて、わが国では、このように突然に家族を事件・事故・自死で失った方に対して何らかの支援はあるのでしょうか。犯罪被害給付制度といって、殺人などの故意の犯罪行為で不慮の死を遂げた犯罪被害者の遺族に対して、国が犯罪被害者給付金を支給する制度があります。しかし、生活を行うのに十分な額ではなく、原則として親族間の犯罪では支給されないのです。さらに、上記のように心身の不具合を訴えて受診した際の医療費補助はありません

そこで、遺族の希望に応じて心のケアを行うシステムを考えました。遺族は長い間亡くなった人のことを考えており、ふとしたことで悲しみが甦ります。ですから、いつでもアクセスできる相談窓口が必要です。遺族が何の支援も得ずに一人で悲しみ続けている状況を放置してはいけない、何か頼るところがなくてはいけないと考えています。これは、遺された人に対する心身の健康増進に必要なのです。

私たちの職場に「外因死者遺族のための相談窓口」を設置し、電話で相談を受けられる体制を整えました。そして、相談に応じた担当者が遺族のニーズに対応して、県の犯罪被害者支援センター、県の精神保健福祉センター等を紹介し、遺族がさらに細かい相談を直接行えるようにしました。もちろん、臨床心理士や精神科医によるケアを受けることもできます。遺族に対しては、本システムをまとめたパンフレットを手渡して説明し、いつでも相談窓口にアクセスできるよう、電話番号を明記しました。本取り組みは、昨年4月から滋賀県で実施しています。

残念ながら、この取り組みに対しては県からの支援が得られませんでした。しかし、このような取り組みが国内で拡がり、その重要性が認知される日を待ち望んでいます。

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