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血算、生化学検査で患者の病態を読み取る[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.76

本田孝行 (信州大学医学部附属病院病院長)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-21

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血算、生化学検査(ルーチン検査)で患者さんの病態を読みたい、と思ったことはないでしょうか。読み方を少し学ぶだけで、患者さんの病態が詳細にわかります。

症例で検討してみます。一昨年の健診で血算、生化学検査はすべて基準範囲内で、昨年も異常はありませんでした。ただ、ALPが150から270 U/L(基準範囲115~300 U/L)、γGTが10から26 U/L(同9.0~27.0 U/L)に上昇していました。基準範囲内だから特に問題ないと考えてよいでしょうか。

検査値の変動には、それなりの理由があります。まず、頻度の高い薬剤性を考えてみます。ALPとγGTを同時に上昇させる薬剤は多くなく、肝細胞障害もないので、薬剤性は考えにくくなります。次に、初期の胆道閉塞が鑑別に挙がりますが、ビリルビン上昇を伴っていないので否定的です。さらに、ALPとγGTの上昇ですので末梢性胆管閉塞を考えます。転移性肝腫瘍が浮かび、頻度の高い大腸癌を疑います。ALPとγGTは、胆汁うっ滞の機械的刺激により胆管・細胆管上皮から産生される酵素ですので、悪性腫瘍の肝転移が末梢胆管を閉塞し、局所的に胆汁をうっ滞させ両酵素を上昇させます。ビリルビンは、他の正常肝組織で代謝されるので上昇しません。また、転移巣が肝細胞を軽度圧迫するだけであれば、肝細胞障害はほとんど認められません。基準範囲内の上昇ですが、異常値の出るメカニズムを理解し時系列で検査値が解釈できれば、読むことのできる所見です。

ルーチン検査は、世界中で最も多く実施されていますが、最も有効に利用されていない検査とも言えます。一つひとつの検査から異常値の出るメカニズムを十分に理解し、複数の検査値を組み合わせて時系列で検討できれば、種々の病態を正確に把握できます。学生には、診察するようにルーチン検査を読もう、と強調しています。また、複数のルーチン検査の動きを解釈し病態をつかめれば、医者の人生が2倍楽しくなる、と教育しています。うなずいてくれるのは20%くらいです。

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