ディスレクシアは,成人の後天的神経疾患ではなく,英語圏では子どもの読み書き障害を指す
発達障害を抱えた児には,自閉傾向を示す子や落ちつきがない子だけではなく学習障害(LD)も含まれる
日本のディスレクシア児は,日本語の特徴により目立たないが多大な苦痛を抱えている
海外では,ディスレクシアへの神経学,分子生物学,遺伝学的解明の努力がされている
いわゆる子どもの発達障害には,広汎性発達障害のうち高機能自閉症やアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム)などにみられる対人面の問題,注意欠陥・多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)などの行動面の問題,学習障害(learning disabilities:LD)などが含まれる。また,障害児ということばの持つ差別感などから,最近では,学習症というような言い方にもなってきている。発達障害という名称は医学的診断名ではなく,軽度発達障害と言われた時期を経て,一般に使われている用語である。
発達障害における子どもの対人・行動面の問題は比較的一般にも知られているが,読み書きの問題については,ほとんど知られていない。教育の問題と思われるかもしれないが,教育現場でも,学級運営に支障となるような上記の問題について対策は取られてきているものの,読み書きのLDは,ないがしろにされがちである。おそらく読者の先生方は,脳血管障害や交通事故による脳の後遺症による失読,失書はご存知かもしれない。つまり,失読,失書に似た状況が,発達の問題として,子どもに生じうるということである。
海外,特に英語圏では,ディスレクシアが学童期の子どもの10~20%近くにみられることから,一般によく知られており,医学的知見も進んでいる。ディスレクシアは,子どもの読み書き障害を指すことが多く,研究者間では,発達性ディスレクシアと言われることも間々みられる。米国・ボストンのマサチューセッツ・ジェネラル・ホスピタルに見学に来た日本の医師たちに現地の医師らが「日本ではディスレクシアはどのくらいいるのか」と尋ねると,誰もが「子どものディスレクシアは見たことがない」と言っていたそうである。また,海外から英語を教える教師が来日し,「この生徒はディスレクシアではないか」と言っても,日本の教師たちは「ディスレクシアを知らない」と言うと聞く。日本でも読み書きに障害を持つ子どもは,2学級に1名程度はいるのではないかと思われる。後述するが,さらに漢字や英語になると日本におけるディスレクシアはもっと多くなる。
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