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【識者の眼】「HPVワクチン接種率が伸び悩む原因」勝田友博

No.5213 (2024年03月23日発行) P.56

勝田友博 (聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)

登録日: 2024-03-05

最終更新日: 2024-03-05

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国内では2013年6月〜2022年3月までの約9年間、ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)ワクチンの積極的接種勧奨の差し控えがなされ、HPVワクチン接種率は一時期1%を下回った。その後、2022年4月からは接種勧奨が再開された影響もあり、国内のHPVワクチンの最新接種率(2023年4〜9月)は、初回接種が39.9%、2回接種が12.8%まで上昇している1)

一方で、たとえば米国では女児のHPVワクチン初回接種率(2022年)は77.8%であり2)、依然として約2倍の乖離がある。さらに国内の接種率の算出は、分子である接種者数が「12歳となる日の属する年度の初日から16歳となる日の属する年度の末日までの間にある女子で接種した者の数」(すなわち5年度分)であるのに対し、分母は「13歳となる日の属する年度の初日から当該年度の末日までの間(標準的な接種期間)の総人口」(すなわち単年度分)となっており、実際の国内HPVワクチン接種率は1/5程度であると推定される。

HPVワクチンの安全性と有効性に関するエビデンスは既に十分確認されており、筆者は、今日における国内接種率の伸び悩みは以前国内で認めていた「安全性に対する懸念」から「無関心」へ移行していると考えている。実際、HPVワクチンは対象疾患が発症するまで10年以上を要することもめずらしくないため、その効果を一般の方々が短期間で実感することはほとんどなく、子宮頸がん等の診断を受けて初めてワクチンの存在を認識することも多い。

近年は厚生労働省、地方自治体、学会、かかりつけ医などによる啓発活動が積極的に行われているが、勉強や部活動などで多忙をきわめ、乳幼児と比べるとかかりつけ医への受診機会が減少しやすい思春期小児とその保護者へは啓発メッセージが届きにくいのも事実である。

HPVワクチンの月別接種件数は、春休みと定期接種の期限を迎える3月、および夏休みである8月に集中することが多い3)。さらに、平成9年度〜平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日〜2007年4月1日)でHPVワクチン接種を逃した女性に対するキャッチアップ接種の終了を約1年後の2025年3月に控えている。

PVワクチンの接種完了までは約半年を要することからも、これからの1年間、特にもうすぐ迎える今年の春休み、および夏休みにおけるHPVワクチン接種率増加に向けた啓発活動のさらなる強化は、依然としてHPVワクチン接種率が伸び悩んでいるわが国にとって必須の課題である。

【文献】

1)厚生労働省:第100回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会 資料3-1.(2024年1月26日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001197476.pdf

2)Pingali C, et al:MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023;72(34):912-9.

3)日本小児科学会神奈川県地方会感染症小委員会, 他:神奈川県HPVワクチン接種状況.
https://kanagawa-hpvgraph.azurewebsites.net/

勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[積極的接種勧奨キャッチアップ接種

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