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漢方の分子生物学的なエネルギーの生産・新陳代謝と生体内原子転換の関係

No.4703 (2014年06月14日発行) P.66

大歳栄一 (おおとし消化器科整形外科院長)

登録日: 2014-06-14

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

漢方医学の中の『経方医学』の「生体内における漢方の生理に基づいた分子生物学的なエネルギーの生産,新陳代謝」と「生体内原子転換」との関連について,文献を併せて。岩手県おおとし消化器科整形外科医院,大歳栄一先生に。 (青森県 W)

【A】

『経方医学』では,『黄帝内経』(文献1)における「胃氣がなければ死ぬ」ことから氣を産生する発電所として「胃」と「腎」を最重要視している。またリチャード(文献2)は,物質的身体とホログラフィックなエーテル体・アストラル体・メンタル体とを繋ぐ負のエントロピーを持つ微細な生命エネルギーを「氣」ととらえている。このことから筆者は,分子生物学的なエネルギー産生の場〔アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:ATP)フィールド〕であるミトコンドリアがそれに相当するのではないかと考える。
江部(文献3,4)は,漢方の生理の中で「発電所」機能に関して,甘草,大棗,人参,生姜,乾姜を特に重要な生薬として記述している。生薬の人参は,ATPと6-ホスホフルクト-1-キナーゼ(phosphofructo-kinase:PFK)の基質であり,人参それ自体もPFKを活性化して解糖系を促進する。大棗はPFK阻害薬を解除することで解糖系を促進する。ATP産生は主に解糖系とミトコンドリアに依存しており,ショ糖の300倍の甘みを有する甘草は,多彩な生理活性を有することから,エネルギー産生の場で情報系としての重要な役割を果たしている。生姜や乾姜は,ミトコンドリア内膜にある脱共役蛋白質(uncoupling protein:UCP)でプロトン(水素イオン,陽子)を放電させて熱産生を行い,体温調節を行う上で不可欠な生薬である。
「分子生物学的エネルギー産生」と「生体内原子転換」の関連については,ミトコンドリアにおける電子伝達系でのATP合成の仕組みが深く関わっている。プロトンがATP合成ゲートに向かって流れ込むとき,分子モーター(発電機)が回転して電気エネルギーがATPという化学エネルギーに変換されるのである。その際,ATP合成酵素のミクロのタービンを回転させる動力は,ミトコンドリアのクリステ膜に配置した電子伝達系による電気化学ポテンシャル勾配の形成である。
筆者は,植物が有する放射性カリウムに潜在的なエネルギー変換のポテンシャルが存在するのではないかと考えている。野菜や果物や生薬から細胞内に取り込んだカリウムの0.0117%は,中性子が1個多い同位体のカリウム40である(文献5)。中性子が1個多い同位体が電子を出しながらプロトンになる。すなわち,放射性カリウム40K19が電子を放出してカルシウム40Ca20に転換される過程で,内膜の電子伝達系を介して膜間腔とマトリックスとの間にプロトンの濃度勾配が形成される。この電気化学ポテンシャル勾配に従ってプロトンが内膜のATP合成酵素中を移動するときに放出される自由エネルギーによりATPが合成されるのである。まさにこれこそが,生体内原子転換,ミトコンドリアにおける「原子力発電」の正体であり,古代人がホログラフィックに「胃氣がなければ死ぬ」と直感した生化学的・分子生物学的根拠である。

【文献】


1) 南京中医学院, 編, 石田秀実, 監訳:黄帝内経素問. 上巻-現代語訳. 東洋学術出版, 1991, p302-21.
2) リチャード・ガーバー:バイブレーショナル・メディスン. 上野圭一, 他 訳. 日本教文社, 2000, p250-2.
3) 江部洋一郎, 他:経方医学I. 2版. 東洋学術出版, 2006, p182-99.
4) 江部洋一郎, 他:経方薬論. 東洋学術出版, 2001, p22-86.
5) 桜井 弘:元素111の新知識. 講談社, 1997, p113.

【参考】

▼ 久司道夫:原子転換というヒント. 三五館, 1997.
▼ 柴田年彦, 他:ほとんど食べずに生きる人. 三五館, 2008.

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