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【識者の眼】「common diseaseとしての性虐待」小橋孝介

No.5212 (2024年03月16日発行) P.55

小橋孝介 (鴨川市立国保病院病院長)

登録日: 2024-02-28

最終更新日: 2024-02-28

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日本小児科学会が「子どもへの性虐待に関する提言」を公開した。提言の中で、「小児科医は、つねに子どもの味方として寄り添い、支え、子どもの声を代弁し、子どもの権利を守る子どもの総合医です。よって小児科医は虐待を始めとする様々な権利侵害を受けている子どもたちにとって、身近な相談相手となり、適切な対応を行い、ケアにつなげる役割を担います」と子どもの総合診療医、子どものアドボケイトとして、小児科医がどうあるべきかを示している。

中央社会保険医療協議会は2024年度の診療報酬改定で、小児かかりつけ診療料の見直しを行い、その要件として、①発達障害を疑う児の診療等を行うこと、②不適切な養育にも繋がりうる育児不安等の相談にのること、③医師が発達障害等に関する適切な研修及び虐待に関する適切な研修を受講していることが望ましいこと─を追加した。

22年の文部科学省の報告1)によると、通常級に在籍し特別な教育的支援を要する子どもは全児童生徒の8.8%である。既に支援教育を受けている児童も合わせると10%を超え、10人に1人以上となる。子ども虐待で通告される児は、22年の統計で児童相談所への通告と市町村への通告を合わせると37万件を超える。18歳未満の小児人口で見ると50人に1人が通告対応されており、通告に至らないが何らかの支援を要する子どもはそれ以上と考えられる。発達障害も、子ども虐待も、その頻度を見ればcommon diseaseであり、今回かかりつけ小児科医の要件に加えられたことも頷ける。

一方で、性虐待は児童相談所への通告件数で見ると虐待全体のうち1%程度であり、特殊な類型と考えている小児科医も少なくない。しかし、性虐待を子どもに対して大人(または年長者)が行う性的接触や年齢不相応の性的刺激にさらすなどの行為と定義した場合、その頻度は報告によって多少バラツキがあるものの女性で5人に1人程度、男性で10人に1人程度とかなり多い。性虐待も隠れたcommon diseaseなのである。子どもの総合診療医、アドボケイトとして、小児科医は身近な問題として性虐待をとらえ、しっかりと向き合わなくてはならない。

※性虐待への初期対応は一般的な子ども虐待への対応に加えて、話の聞き取りに特別な配慮を要する。今後、性虐待の初期対応に関する研修の普及も必要である。現在日本で受講可能な研修には、認定NPO法人チャイルドファーストジャパンが行っているRIFCR研修などがある。

【文献】

1)文部科学省初等中等教育局特別支援教育課:通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について.(令和4年12月13日)
https://www.mext.go.jp/content/20230524-mext-tokubetu01-000026255_01.pdf

小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[性虐待子ども虐待子ども家庭福祉

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