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【識者の眼】「事故調査のあり方〜羽田事故から考える」榎木英介

No.5210 (2024年03月02日発行) P.53

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

登録日: 2024-02-08

最終更新日: 2024-02-08

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2024年1月2日に起きた羽田空港での航空機衝突事故には、日本中が衝撃を受けた。炎上する機体から乗客が脱出した一方、海上保安庁の飛行機では5人の方が亡くなられた。心よりご冥福をお祈りする。

なぜこのような事故が起きたのか……。人々が不安になり、「なぜ」を追求する気持ちは痛いほどわかる。その声を受け、メディアは取材を通じて原因を推測している。また、警察が捜査に入り、小出しに捜査情報をリークするなどして、しだいに責任者は「あの人」だ、といった声が強くなりつつある。

この状況に強い違和感を覚えた。航空安全は医療安全の「先生」のようなもので、これまで起きてきた数多くの悲惨な事故を教訓に、責任追及とは分離して調査することで、安全な飛行機の運行を達成してきたのではなかったのか。

実は日本は国際民間航空(ICAO)条約(シカゴ条約)を批准しているが、事故調査と刑事司法手続きの分離を定めた条約第13付属書5.12条について、“相違通告”を行っている。つまり、事故調査と刑事司法を分離していないのである。

これで航空安全が達成できるのか、複雑な思いを抱いたが、日本乗員組合連絡会議は黙っていなかった。事故3日後には調査と責任追及を分離すべきとの声明を発表した1)。当事者が声をあげたのだ。SNS上でも、調査と責任追及を問題視する声が多くあがった。

こうした状況を医療安全、医療事故調査の観点からみると、考えるべきことが多々ある。「先生」である航空安全も共通の課題を抱えているのだ。しかし、医療安全では、先日書いた通り、医療安全に関わる一部の医師が、こうした状況に反対するどころか、むしろ促進しているような状況なのだ。航空安全に後れをとっていると言わざるをえない。

私たち医療関係者は、航空安全の動きを、固唾を呑んで見守ると同時に、声をあげた日本乗員組合連絡会議を大いに支持したいと思う。1月29日、私が代表を務める全国医師連盟は、この日本乗員組合連絡会議の声明に賛同する声明を公表した2)

患者の安全と乗客の安全。対象は違っても、人々の生命に関わることだ。業界の垣根を越えて連帯し、より安全な社会をつくっていきたい。

【文献】

1)ALPA Japan/日乗連公式サイト:「47AJN13 2024年1月2日発生の羽田空港における航空事故に関する緊急声明」.(2024年1月5日)
https://alpajapan.org/47ajn13-2024%E5%B9%B41%E6%9C%882%E6%97%A5%E7%99%BA%E7%94%9F%E3%81%AE%E7%BE%BD%E7%94%B0%E7%A9%BA%E6%B8%AF%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%88%AA%E7%A9%BA%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%81%AB%E9%96%A2

2) 全国医師連盟公式サイト:「羽田空港における航空事故に関する全医連理事会声明」.(2024年1月29日)https://zennirenn.com/news/%e7%be%bd%e7%94%b0%e7%a9%ba%e6%b8%af%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e8%88%aa%e7%a9%ba%e4%ba%8b%e6%95%85%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e5%85%a8%e5%8c%bb%e9%80%a3%e7%90%86%e4%ba%8b%e4%bc%9a/

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[国際民間航空条約][責任追及][日本乗員組合連絡会議]

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