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【識者の眼】「国家試験は正確に〜医師法第21条に関する不適切問題を憂う」榎木英介

No.5206 (2024年02月03日発行) P.60

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

登録日: 2024-01-17

最終更新日: 2024-01-17

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私が医師国家試験を受けたのはちょうど20年前、2004年だ。国家試験の過去問を必死に解いていたことを思い出す。国家試験の過去問は、今現在も私の医学的知識の土台になっている。

しかし、その土台が間違っていたらどうなるだろう。実はそれが現実のものとなった。2023(令和5)年に実施された国家試験の1題が、不適切ではないかという声があがっているのだ。

その問題はこれだ(第117回医師国家試験B問題40問)。

70歳の男性。肺炎で入院加療を受けている。肺炎が治癒したため、自宅で退院予定であった。担当医が早朝に診察するために病室に入ったところ、点滴チューブの接合部が外れ、床面に逆流した血液が溜まっているのを発見した。患者の状態を確認したところ、既に患者の下顎に死後硬直を認め、死亡確認を行った。

この状況で次に行うべき適切な対応はどれか。

a 清掃の指示
b 異状死の届出
c 保健所へ連絡
d 病理解剖の依頼
e 死亡診断書の記載

厚生労働省の正答はbとされているが、これは問題がある。

医師法第21条は「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と定めているが、最高裁判所は2004(平成16)年4月13日に以下のような趣旨の判決を出している。

1 医師法21条にいう死体の「検案」とは、医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい、当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わない。

2 死体を検案して異状を認めた医師は、自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも、医師法21条の届出義務を負うとすることは、憲法38条1項に違反しない。

これが示すように、医師が行わなければならない行為は、検案による外表異状の有無の確認だ。異状死体であるかは外表異状の有無により判断される。しかし、問題の選択肢には外表異状の確認が含まれていない。異状死と異状死体が混同されているのだ。

医学生は過去問で勉強する。このままでは誤った考えを持った医師が誕生してしまう。厚労省はこの問題について早急に対応すべきではないだろうか1)

【文献】

1)全国医師連盟は2023年11月13日に、この問題について声明を発表している 
https://zennirenn.com/news/%e7%b2%be%e7%a2%ba%e3%81%aa%e5%8c%bb%e5%b8%ab%e6%b3%9521%e6%9d%a1%e8%a7%a3%e9%87%88%e3%81%ae%e5%91%a8%e7%9f%a5%e3%81%a8%e7%ac%ac117%e5%9b%9e%e5%8c%bb%e5%b8%ab%e5%9b%bd%e5%ae%b6%e8%a9%a6%e9%a8%93

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[異状死体[外表異状]

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