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【識者の眼】「アタッチメントと子どもの育ち」小橋孝介

No.5203 (2024年01月13日発行) P.57

小橋孝介 (鴨川市立国保病院病院長)

登録日: 2023-12-22

最終更新日: 2023-12-22

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こども家庭審議会は、「全てのこどもの『はじめの100か月』の育ちを支え生涯にわたるウェルビーイング向上を図るために」と題して、幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なヴィジョン(以下、ヴィジョン)に関する答申を2023年12月1日、公表した。

ヴィジョンでは、幼児期までの成育環境がその後の生涯にわたるウェルビーイングの向上に重要であることを背景に、5つのヴィジョンを示している。この中で、安心の土台としてアタッチメント(愛着)について述べられている。

英国の精神科医であるジョン・ボウルビィは1950年代に施設で養育された戦争孤児に見られる様々な症状(発達の遅れ、精神症状など)を、母親からの愛情を受けられなかったことによる「maternal deprivation」(母性剥奪)と報告し、母親と子どものアタッチメントの重要性を初めて示した。さらに、1989年にルーマニアでチャウシェスク政権が崩壊し、同国内の施設で劣悪な環境に置かれていた十数万人の孤児たちについて、その後行われた追跡研究の結果などから、幼児期においては、母親に限らず、子どもの心身に寄り添い安心感を与える身近な大人とのアタッチメントが、子どもの将来のウェルビーイングに大きく影響することが明らかになった。

アタッチメントは「子どもの育ち」という観点から、すべての子どもにおいて必要な視点である。アタッチメントの形成には、保護者・養育者がどのように子どもに向き合っていくかだけでなく、アタッチメントの対象となる保護者・養育者自身のウェルビーイングを周囲がどのように支えていくのかも重要である。

今回のヴィジョンでは、「それぞれのこどもから見た『こどもまんなかチャート』」を示し、子どもと保護者・養育者を取り囲む、子どもの育ちを支えるために考え方を共有したい人が示されている。

医療者として、医療機関などの組織の一員として、そして地域社会の一員として、私たちは子どもの育ちを支えていかなければならない。そして、直接子どもに関わることがなかったとしても、何らかの形で一人ひとりにできることが必ずある。

子どもは未来の礎である。社会全体で「こどもまんなか社会」が実現するよう取り組んでいきたい。

小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[アタッチメント][子ども家庭審議会][子ども家庭福祉]

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