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【識者の眼】「自殺対策のコミュニティ・モデルとメディカル・モデル」堀 有伸

No.5200 (2023年12月23日発行) P.61

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2023-12-08

最終更新日: 2023-12-08

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自殺は、20・30代の日本人の死因の第1位となっています。これに対処することは、日本人の健康と福祉にとってきわめて重要な課題です。そして、自殺対策は医療の観点からどう考えるべきでしょうか。

私は精神科医であり、患者が自殺に至ってしまったことを経験したときには、自身の力不足を深く恥じると同時に、医療のみでは十分に対処できない複雑さを感じました。自殺は単なる病気の症状だけの問題ではなく、その人が社会の中で「ここなら生きていける」と思える場や人間関係が失われたときに、起きやすくなります。しかし、そのような環境を整えることは、状況によっては非常に難しいと思います。

自殺対策には、コミュニティ・モデルと呼ばれるアプローチが存在し、これは前述の考え方に基づいています。実際に自殺を予防するには、精神科医療だけでは難しいという認識から、私はコミュニティ・モデルに基づく自殺対策の考え方を支持しています。ここ数年、このアプローチが広まり、国や地方自治体による自殺対策では、「自殺を考えているかもしれない人」と積極的にコミュニケーションをとる「ゲートキーパー」と呼ばれる人々を増やす取り組みが行われています。

一般的に、これは良いアプローチだと考えていますが、同時に危険性も見え隠れしています。ゲートキーパーが十分なトレーニングやサポートを受けずに難しいケースに巻き込まれる可能性があります。そのため、社会的な支援のみに頼るのではなく、自殺対策のメディカル・モデルも同様に推進していくことが重要です。この場合には、うつ病やアルコール依存症などの精神疾患の早期発見・治療をめざすことになります。

ただ、最近の日本の自殺対策では、この側面が十分に議論されていないように感じます。これは、政府が医療費を抑える意向から、メディカル・モデルを軽視してコミュニティ・モデルを強調する方針を取った可能性も考えられます。しかし、この場合、公的な支援が不足し、自助と共助が主要なアプローチとなってしまいます。ゲートキーパーをうつ病にしないことも重要です。

複雑で難しい課題に対処するためには、このような議論と実践の精度を向上させていくことが重要です。コミュニティ・モデルとメディカル・モデルを組み合わせて、包括的な自殺対策を進めるべきです。そして、政府、医療機関、地域コミュニティなどが連携し、効果的なプログラムの開発と実施に取り組むべきです。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[ゲートキーパー][早期発見・早期治療]

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