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【識者の眼】「DEI(Diversity,Equity and Inclusion)が保健医療の世界にも浸透してきた」中村安秀

No.5197 (2023年12月02日発行) P.62

中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)

登録日: 2023-11-16

最終更新日: 2023-11-16

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いま、民間企業においてDEI(Diversity,Equity and Inclusion)というキーワードを聞く機会が多くなった。単なる社員の福利厚生を超えて、グローバル化する企業の持続可能性と価値創出のために、多様性と包摂に加え、公平性を打ち出している。平等ではなく、公平が重要ということを説明するために、塀の向こうの海を見たい子どもを例に挙げることがある。平等な対応では、2人の子どもに同じ高さの踏み台を渡すことになる。背の高い子どもは塀の向こうの海が見えるけれど、背の低い子どもに海は見えない。それぞれの身長に合わせて高さの違う踏み台を渡さないと、同じ景色は見られない。身長が異なる子どもたちがいる場合、すなわち多様性に対応するためには、平等ではなく、ニーズに合わせた公平な対応が必要とされるのである。

私が、このようなDEIの概念を知ったのは、2022年8月にカナダのトロントで開催された「第13回母子手帳国際会議」であった。事務局の運営を一手に引き受けてくれたのは、大阪大学で博士号を取得したバングラデシュ出身のシャフィ・ブイヨン医師と、彼が指導しているトロント大学を中心とした院生たち。日本発で世界50カ国以上に広がった母子手帳について、自分たちで手分けして調査分析を行い、国際会議のなかで「トロント宣言」を発表した。

その根幹をなす概念が、母子健康手帳をめぐる以下のDEIの原則だった。

多様性:ボトムアップのアプローチを採用することにより、住民のサブグループのニーズに合わせた文化的に配慮したサービスを提供する

公平性:十分なサービスを受けていない人々のために、質の高い医療へのアクセスを改善する

包 摂:低出生体重児、新生児、発達障害児など特定のニーズや状態に関して特別な対応をする

私自身は、長年にわたり母子手帳を研究テーマにしてきたが、DEIという切り口の新鮮さをトロント大学の院生たちに教えられた。またDEIがビジネスの世界だけでなく、保健医療サービスの社会実装において重要な概念であることを新たに認識した。日本国内で既に実施されているすばらしい保健医療の取組みを再評価するときに、DEIの視点から再点検することにより、いままで気づかなかった新しい付加価値が生まれることを期待したい。

中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[SDGs][多様性][公平性][包摂]

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