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精神科病院での隔離患者の診察回数

No.5170 (2023年05月27日発行) P.54

長谷部圭司 (蒼法律事務所 医師・弁護士)

登録日: 2023-05-29

最終更新日: 2023-05-24

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精神保健福祉法には隔離について「医師は原則として少なくとも毎日1回診察を行うものとする」とあります。精神保健福祉法の運用マニュアル(平成12年4月厚生省保険医療局)のⅢ-3-(2)「隔離,身体的拘束中の患者に対する診察」の項目では,
①主治医は,1日に1回以上,行動制限を行っている患者を診察し,その所見及び行動制限継続の要否を診療録に記載する。
②当直医は,隔離,身体的拘束中の患者の状況を把握するとともに,1日に1回以上,行動制限を行っている患者を診察する。
と書かれています。法令上では隔離患者には1日1回の診察でもよいですが,現場では,日勤帯で1回と当直帯で1回の合計1日2回の診察が望ましいという意味と解釈しています。この解釈に誤りがあるかご教示ください。(東京都 S)


【回答】

 【法令上では隔離患者には1日1回の診察でもよいが,日勤帯で1回と当直帯で1回の合計1日2回の診察を行うことは,より法の趣旨を尊重した行為と言える】

まず結論から話しますと,その解釈で問題ありません。

以下,考え方について述べたいと思います。

「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(精神保健福祉法)では,「第三十六条 精神科病院の管理者は,入院中の者につき,その医療又は保護に欠くことのできない限度において,その行動について必要な制限を行うことができる」とされており,精神科病院の管理者は入院中の患者の行動制限を行うことができるとされています。

しかし次条では,「第三十七条 厚生労働大臣は,前条に定めるもののほか,精神科病院に入院中の者の処遇について必要な基準を定めることができる。2 前項の基準が定められたときは,精神科病院の管理者は,その基準を遵守しなければならない」とされていることから,患者の行動制限を行う場合について,厚生労働大臣が「必要な基準」を定めることができ,精神科病院の管理者はその定められた「必要な基準」を守らなければならないとされます。

このようにして定められた「必要な基準」が,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(厚生省告示第百三十号)」となっています。これがいわゆる「精神保健福祉法の運用マニュアル」の内容の根拠となっています。

その「必要な基準」において,患者の隔離は,「患者の症状からみて,本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く,隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断される場合に,その危険を最小限に減らし,患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われる」とされており,隔離をする際の遵守事項として,「隔離を行つている間においては,定期的な会話等による注意深い臨床的観察と適切な医療及び保護が確保されなければならないものとする」こと,「隔離が漫然と行われることがないように,医師は原則として少なくとも毎日1回診察を行うものとする」ことが定められています。

これらの「必要な基準」から,医師は原則として毎日1回は診察をしなければならないとされています。この基準は法律上の基準であり,これに反した場合は違法となります。

ただ,それだけでよいかといえば,同基準は隔離について,「十二時間を超えない隔離については精神保健指定医の判断を要するものではないが,この場合にあつてもその要否の判断は医師によつて行われなければならないものとする」という基準も定めていることから,隔離の条件を満たさなくなった患者を12時間以上隔離することは人権を無視する行為として「必要な基準」の趣旨に反する可能性が出てきますので(不適切ですが,違法ではありません),12時間に1回程度,すなわち日勤帯と当直帯で1回ずつ,隔離を継続しておく必要があるかどうか確認するために医師が診察するという考え方は,法が定められた趣旨を尊ぶ行為として,より適切な解釈ということができると考えます。

【回答者】

長谷部圭司 蒼法律事務所 医師・弁護士

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