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【識者の眼】「医療事故調査制度の『予期しなかった死亡』要件の『予期』を『予見』と混同してはならない」小田原良治

No.5166 (2023年04月29日発行) P.60

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)

登録日: 2023-04-20

最終更新日: 2023-04-20

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医療事故調査・支援センターの医療事故調査制度に関する解説は間違っている。『予期しなかった死亡』の『予期』を『予見』と混同しているようである。

医療事故調査制度の『予期しなかった死亡』要件の『予期』とは、抽象的な概念であり、まさか亡くなるとは思わなかったというような状況を指す1)。過失の要件としての、法律用語の『予見』とは異なる。従って、『予期』の概念を明確にするために、医療法施行規則第1条の10の2第1項各号において『予期しなかった死亡』要件に該当しない類型が列記されたのである。また、医療法第6条の10に、「当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」と明示されているように、「『死亡』という結果そのものを『予期』」しなかったものであり、「『死因』を『予期』」しなかったものではない。医療事故調査制度の『予期しなかった死亡』要件の『予期』は『医療安全』・『医療の内』の概念であり、責任追及の結果を招いてはならないのである。

一方、『予見』とは因果経過も含めた具体的な予見であって、結果回避義務を伴うものを言う。過失責任追及の概念であり、『医療安全』・『医療の内』の概念ではない。東北厚生局YouTube公式チャンネルにある講演2)には、「『予期していた』ならば 対応策をとるはず」との記載があるが、これは『予期』を『予見』と混同していると思われる。また、「『死因』を『予期』」したものと誤解させるような表現がなされている。将に、結果回避義務を課しているような表現であり、明らかに『予期』と『予見』の混同と言えよう。

また、「Third Global Ministerial Summit on Patient Safety 2018」3)の医療事故調査・支援センター木村壮介常務理事の発表スライドは、意図的「すり替え」ではないかとの疑いが残る。医療事故調査制度の『予期しなかった死亡』を“unforeseen”と訳してあるのである。法令用語日英標準対訳辞書によれば、“foreseen”は『予見』とされている。通常用語の『予期』は“expect”であろう。日本を代表する医療事故調査・支援センターの常務理事が、国際会議の場で、『予期しなかった死亡』を“……,which was unforeseen by the administrator”と訳した上に「Official Document(English Version)」と記載しているのは、意図的に法令解釈を「すり替え」ている疑いがある。

【文献】

1)小田原良治, 他:新版医療事故調査制度運用ガイドライン. 幻冬舎, 2021, p41, p136.

2)東北厚生局:YouTubeチャンネル.(現在は非公開)

3)Kimura S:“Medical Accident Investigation System” in Japan, 2018, p18.
https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/summit-slide.pdf

小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[医療法施行規則第1条の10の2第1項]

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