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パーキンソン病・パーキンソン症候群[私の治療]

No.5163 (2023年04月08日発行) P.40

加茂 力 (登戸内科・脳神経クリニック院長)

登録日: 2023-04-06

最終更新日: 2023-04-05

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  • Ⅰ.パーキンソン病

    中脳の黒質ドパミン神経が減少し運動症状を呈する疾患をパーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)と言う。PDは指定難病6に指定されている。在宅医療を必要とするPD患者は,運動合併症や非運動症状を合併しており,その症状は多彩である。したがって,その治療法も多様であり,薬物療法だけでなくデバイス補助療法(device aided therapy:DAT)やリハビリテーションにより治療するが,PD患者とその家族にとって医療費を考慮することも重要となる。

    ▶代表的症状

    【運動合併症】

    進行期PD患者は,薬剤の効果が減弱するウェアリング・オフあるいはジスキネジアという運動合併症が問題となる。PD初期はレボドパ(L-ドパ)製剤またはドパミンアゴニストにより治療され,高齢者ではL-ドパ製剤で治療されることが多い。L-ドパ製剤で治療された場合,約5年で50%程度のPD患者でウェアリング・オフあるいはジスキネジアを生じる。ウェアリング・オフとは,内服時間と関連して薬剤の効果が減弱し,パーキンソニズムが増悪する現象を言う。

    【非運動症状】

    睡眠障害・覚醒障害,精神・認知・行動障害,自律神経障害,感覚障害,体重変化,疲労といった,運動機能とは関係しない症状が,PD患者の生活の質を阻害する。睡眠障害では,レム睡眠行動障害,下肢静止不能症候群,睡眠時無呼吸症候群が,精神障害では,うつ,不安,アパシー(無感情),アンヘドニア(快楽消失)が,自律神経障害では,起立性低血圧,排尿障害,便秘が,治療の対象となる。

    ▶治療の考え方

    進行期PD患者の治療の主体は薬物療法だが,薬物療法で解決できない運動合併症が残存した場合にDATを検討する。

    ▶アセスメントのポイント

    PDの公的支援制度において医療費は,ホーン-ヤール(Hoehn-Yahr:HY)重症度分類がⅢ度以上かつ厚生労働省の生活機能障害度が2度以上で,難病医療費助成制度の対象となる。HY重症度分類におけるⅢ度は「起立・歩行に介助を要する」,生活機能障害度2度は「日常生活・通院にほとんど介助を要する」状態であり,単身での通院は困難となる。

    ▶治療の実際

    【典型的治療】
    〈運動合併症〉

    メネシット100mg配合錠(レボドパ・カルビドパ水和物)1回1錠1日3回(毎食後)で治療されていた患者がウェアリング・オフを合併した場合の治療法を示す。

    一手目 :メネシット100mg配合錠(レボドパ・カルビドパ水和物)1回1錠1日4回(7時,11時,15時,19時)に増量

    二手目 :〈一手目に追加〉ハルロピ8mgテープ(ロピニロール塩酸塩)1回1枚1日1回〔20時(入浴後)に肩,上腕部,腹部,側腹部,臀部,大腿部のいずれかに貼付〕,以降ハルロピ16mgテープ,24mgテープと漸増(最高用量40mgまで)

    三手目 :〈二手目に追加〉オンジェンティス25mg錠(オピカポン)1回1錠1日1回〔22時(就寝前)〕

    オンジェンティスは食事の前後1時間以上あけて経口投与する。

    四手目 :〈三手目に追加〉エクフィナ50mg錠(サフィナミドメシル酸塩)1回1錠1日1回(7時)

    五手目 :〈四手目に追加〉DATの導入

    適応を十分に考慮した上で導入を検討する。DATには,脳深部刺激(deep brain stimulation:DBS)療法とL-ドパ持続経腸(levodopa-carbidopa continuous infusion gel:LCIG)療法がある。DBS療法は,定位脳外科手術により,視床腹中間核,視床下核または淡蒼球内節に刺激電極を植え込み,リードと神経刺激装置は前胸部の皮下に植え込む手術である。LCIG療法は,内視鏡を用いた胃瘻造設術による治療で,経胃瘻空腸内投与用チューブと専用ポンプによりデュオドーパ配合経腸用液(レボドパ・カルビドパ水和物)を空腸内に持続的に投与する。

    〈非運動症状〉

    一手目 :〈レム睡眠行動障害の場合〉リボトリール0.5mg錠(クロナゼパム)1回1錠1日1回(就寝前)

    一手目 :〈下肢静止不能症候群の場合〉ビ・シフロール0.125mg錠(プラミペキソール塩酸塩水和物)1回2錠1日1回(就寝2時間前),またはレグナイト300mg錠(ガバペンチン エナカルビル)1回1錠1日1回(夕食後)

    【薬物療法の効果が低い運動症状に対するニューロ・リハビリテーション】

    神経科学のエビデンスに基づいたリハビリテーションをニューロ・リハビリテーションと言う。進行期PDのニューロ・リハビリテーションには,医療保険による入院,外来,訪問リハビリテーションと,介護保険によるリハビリテーションがある。医療保険では薬物療法の効果が低い,オン状態のすくみ足,姿勢異常,姿勢保持障害や嚥下障害に対するプログラムで治療が可能である。PD患者の生活を維持するために,生活環境を考慮した外来と訪問リハビリテーションが有用である。

    ▶ケアおよび在宅でのポイント

    進行期PD患者の治療継続のためには,医療費および介護費用について考える必要がある。難病医療費助成制度の継続利用のため,難病指定医あるいは協力難病指定医に毎年更新を依頼する。DATの導入時に高額療養費制度の申請を検討する。運動症状が進行し,障害が高度となった場合は,肢体不自由の身体障害者手帳申請書類を指定された医師に依頼する。PD患者の介護保険サービスは40歳以上であれば申請が可能である。要介護および要支援に該当すれば,介護支援専門員がケアプランを作成する。

    これらの公的支援を使い,地域における多施設・多職種連携によるチーム医療・介護を構築しなければならない。このチーム医療・介護で重要なのは,進行期PD患者,その家族および周囲の近しい人とすべての職種が,生活を維持するために本人の生き方について繰り返し話し合いを持ち,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)のプロセスから本人による意思決定を支援することである。

    【参考資料】

    ▶ 日本神経学会, 監:パーキンソン病診療ガイドライン2018. 医学書院, 2018.

    ▶ 加茂 力, 他, 編:Gノート. 2019;6(5):675-743.

    ▶ 加茂 力:CLINICIAN. 2022;69(690):226-33.

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