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【識者の眼】「法律に条文がなくても生じる、情報提供の法的義務」山下慎一

No.5160 (2023年03月18日発行) P.61

山下慎一 (福岡大学法学部教授)

登録日: 2023-03-01

最終更新日: 2023-03-01

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こんにちは。担当2回目は、法律の条文に書かれていない情報提供の義務が認められた判決を紹介します。

その判決は、平成26年11月27日に大阪高等裁判所が出したものです。あるお子さんが脳腫瘍を患い、長期療養が必要になりました。親御さんは経済的に苦しくなると感じ、お子さんが入院していた病院の職員さんに、何か経済的な支援制度がないか尋ねたところ、病院の職員さんから、支援制度があるので市の窓口に行くよう助言を受けました。

そこで市役所に行って、状況を説明したうえで何か支援制度はないかと窓口の職員さんに尋ねたところ、窓口の職員さんは2回、「ないです」と答えます。実際には、脳腫瘍に罹患した子は「特別児童扶養手当法」の定める「障害児」に該当するため、その親御さんにはその手当の受給資格があったのですが、市の職員さんがそう言うのなら支援の制度はないのだろうと思い、親御さんは何の申請もしません(できません)でした。

約5年後、親御さんは、自分たちに特別児童扶養手当の受給資格があったことを知り、給付を請求したのですが、法律には、あくまで請求の翌月からしか支給ができない(過去には遡れない)と書いてあります。そのため、約5年分、300万円ほどの手当を受け取れませんでした。そこで親御さんは、市を相手に、損害賠償を求める裁判を起こします。

問題は、特別児童扶養手当法をはじめ、どの法律にも、正しい情報提供をする義務を定める条文がないことです。苦戦が予測され、実際に第1審の大阪地方裁判所では、親御さんは敗訴しました。しかし、控訴を受けた大阪高等裁判所が、逆転で親御さんたちの勝訴判決を出します。理由は、「社会保障制度が複雑多岐にわたっており、一般市民にとってその内容を的確に理解することには困難」であるから、行政の職員は、「条理」(法律には書かれていないけれども非常に大事な「正義」みたいなものです)に基づき、適切な情報提供をすべき「職務上の法的義務」=「教示義務」を負うのだ、というものです。親御さんたちは300万円弱の損害賠償を勝ち取り、市が上告をしなかったため判決は確定します。

「すごい! でも私は行政の職員ではないから関係ない」とお感じでしょうか? 実は、医療法人に関しても、似たようなことを述べた判決がありますので、次回紹介します。

山下慎一(福岡大学法学部教授)[福祉][社会保障][法律学][情報提供の義務][特別児童扶養手当]

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