心房細動(AF)患者の脳塞栓症予防に、抗凝固療法が有効なのは言うまでもない。しかしDOAC承認の根拠となったランダム化比較試験(RCT)でさえ、同薬服用者の1.11~2.10%/年は、脳卒中・塞栓症をきたしており[Ding WY. 2021]、抗凝固療法以外のさらなる介入の必要性も示唆されている。J Am Heart Assoc誌7月29日号掲載の"GLORIA-AF Registry"[Ding WY, et al. 2022]では、そのような観点から興味深いデータが示された。
同レジストリの対象は、日本を含む38カ国から2011~2020年に登録された、新規AF診断後、抗凝固療法を開始した2万2410例である(年齢中央値:65歳、女性:44.8%)。脳梗塞既往例は1.6%のみ、78.4%がDOACを服用していた。
中央値3.0年間の追跡期間中、年間0.6%で脳梗塞が発生した。先述のRCTに比べ、(全身性塞栓症を含まないとしても)かなり低い値である。この理由として原著者は、本レジストリでは「新規AF」のみを対象としたため、相対的に低リスク例が対象となっていた可能性などを指摘している。
なお、「血栓塞栓症既往」の有無で分けると、「既往なし」群の脳梗塞発生率が年間0.49%だったのに対し、「既往あり」では1.54%だった。
次に、脳梗塞の独立したリスク因子を、多変量解析で探った。補正したのは、年齢・性別に始まり、各種代謝異常や併存心疾患、血栓塞栓症既往やAF類型、レニン・アンジオテンシン系阻害薬の有無など、既存報告から影響が明らかになっている19項目である。
その結果、「血栓塞栓症既往」(2.27、1.73-2.98)と「糖尿病」(1.42、1.08-1.87)、「持続性AF(vs. 発作性)」(1.34、1.03-1.75)、「1歳加齢」(1.05、1.03-1.07)がそれぞれ、脳梗塞の独立したリスク因子となっていた(カッコ内はハザード比 [HR]と95%信頼区間[CI])。
目を引いたのは、「抗不整脈薬服用」に伴う、脳梗塞の0.66[95%CI:0.47-0.92]という有意かつ著明に低いHRである。近時盛んに報告されている、AFアブレーションによる脳卒中抑制[Saglietto A, at al. 2020、Yang PS, et al. 2020、Kim M, et al. 2021]と併せて考えれば、早期AFに対する、薬剤治療を含むリズムコントロールの有用性[EAST-AFNET 4試験]を再確認するデータであると、原著者は考えている。
本レジストリは、Boehringer Ingelheim GmbHからの資金提供を受けて実施された。