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【識者の眼】「複雑性PTSDが誤診であることを願う」上田 諭

No.5090 (2021年11月13日発行) P.60

上田 諭 (戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)

登録日: 2021-11-04

最終更新日: 2021-11-04

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結婚した元秋篠宮家の小室眞子さんが「複雑性PTSD」であると発表され、診断が正しいのかという論議が精神科医の間でも起きている。

ストレスに対する精神科病名として「適応障害」が知られる。皇后雅子さまや深田恭子さんの例がある。これは、強いストレスによって不安、抑うつ、生活障害が生じ、ストレス因がなくなれば半年以内に症状も消えるものだ。一方、PTSDはトラウマが原因になる。精神科診断でいうトラウマとは通常、「危うく死ぬ」「重傷を負う」「性的暴力を受ける」ことを体験するか目撃するか聞くかすることで生じる。トラウマの苦痛が蘇る(再体験)、思い出す状況を避ける(回避)、恐怖が続いている感覚(過覚醒)などの症状が1カ月以上続けば「PTSD」と診断される。これは適応障害と異なり、ストレスの原因がなくなっても消えることがない。だからこそ消えにくい心の傷=トラウマなのである。

複雑性PTSDは通常、家庭内暴力や身体的・性的虐待、拷問などトラウマとなる原因が何度も繰り返されたときに生じるとされる病気だ。ただし、通常のトラウマだけでなく、「反復的に極めて脅威的または恐ろしい出来事にさらされる」ことが要件とされ、精神的虐待やいじめも原因になる。その点から、眞子さんの診断もなされたのであろう。

PTSDの治療には、心理療法や薬物療法が行われ効果が認められている。一方、複雑性PTSDの治療はいまだ確立されておらず、さらに特別な心理療法が必要になる。両者とも、先述の通り、つらいトラウマ経験から離れることだけでは治療にならない。

眞子さんが渡米されることを「なによりの治療」と評した精神科医のコメントがあったが、もし複雑性PTSDならそう単純ではない。より特化した治療が必要になる。もし複雑性PTSDが誤診で、適応障害であったなら、米国での生活は速やかな治療につながる可能性が高い。

上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)[トラウマ治療]

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