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膵癌の術後補助化学療法の効果は?

No.4937 (2018年12月08日発行) P.63

上坂克彦 (静岡県立静岡がんセンター院長代理/ 肝胆膵外科部長)

登録日: 2018-12-08

最終更新日: 2018-12-04

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膵臓癌は,相対5年生存率が男女ともに7%台で,予後が最も悪い固形がんです。静岡県立静岡がんセンターの上坂克彦病院長代理/肝胆膵外科部長が主宰したJASPAC 01試験1)の結果は画期的なもので,日本人の切除後膵癌に対する術後補助化学療法として,S-1(187例)は,ゲムシタビン(190例)に対し,5年生存割合(44.1% vs. 24.4%)と5年無再発生存割合(33.3% vs. 16.8%)で有意な有効性を示し,わが国ではS-1が切除後膵癌に対する新たな標準治療となりました。その結果,膵臓癌でも長期生存を得られる可能性が期待されています。
以下,上坂先生のご教示をお願いします。
(1)JASPAC 01試験にエントリーされた両群の5年以降の生存割合と無再発生存割合。
(2)3年以上生存できた場合の膵内分泌機能,膵外分泌機能の変化の有無。
(3)3年以上生存者に対する腫瘍マーカー(CA 19-9,DUPAN-2)検査,造影CT検査の頻度。
(4)3年以上生存者で腫瘍マーカーが上昇してきたが,造影CTで再発・転移が明らかではない場合の対処法。

(埼玉県 S)


【回答】

【JASPAC 01試験で,S-1はゲムシタビンに対し,非劣性のみならず優越性を示した】

(1) JASPAC 01試験の両群の5年生存割合と無再発生存割合

JASPAC 01試験1)では,385人の肉眼的根治切除(R0またはR1)後の膵癌症例が登録され,このうち生存解析の対象となったper-protocol症例はS-1群:187人,ゲムシタビン(GEM)群:190人でした。最終登録から5年6カ月後の最終解析では,5年生存率はS-1群44.1%,GEM群24.4%,5年無再発生存率は,S-1群33.3%,GEM群16.8%でした。なお,生存期間中央値はS-1群46.5カ月,GEM群25.5カ月であり,S-1のGEMに対するハザード比は0.57(95%CI;0.44~0.72,非劣性P<0.0001,優越性P<0.0001)でした。JASPAC 01試験は,膵癌術後補助療法において,S-1のGEMに対する全生存における非劣性を検証することが目的でしたが,S-1はGEMに対して非劣性のみならず優越性を示しました。

なお,5年以降の生存率,無再発生存率は検証しておりませんので,お答えすることができません。

(2)3年以上生存例の膵内・外分泌機能の変化

JASPAC 01試験では,膵機能の変化を調査対象としていませんでした。しかし,実臨床における印象としては,3年無再発生存できた症例においては,その後の膵内・外分泌機能は,3年に至るまでと比べて特に大きな変化はないように思います。ただし,膵頭十二指腸切除症例で,膵管空腸吻合部が狭窄して残膵の膵管が徐々に拡張してくる場合や,残膵に再発が生じた場合には,膵内・外分泌機能が低下するので,注意が必要です。

(3) 3年以上生存例に対する腫瘍マーカーと造影CT検査の頻度

JASPAC 01試験のプロトコールでは,腫瘍マーカーについてはCEAとCA19-9を測定することとし,DUPAN-2の測定は必須とはしていませんでした。検査の間隔は,はじめの2年間は,腫瘍マーカーを含む各種血液検査と造影CTを3カ月ごとに行い,3年目からは,腫瘍マーカーを含む各種血液検査は3カ月ごとを維持,造影CTは6カ月に1度検査することとしていました。静岡がんセンターでは,実臨床においても,各種検査の頻度はJASPAC 01試験に準じています。

(4) 腫瘍マーカーが上昇してきたが造影CTでは再発・転移が明らかではない場合の対処法

膵癌術後に,腫瘍マーカーが上昇してくるものの,CTでは再発所見が認められないことはしばしば経験します。とりわけCA19-9は,がん以外の良性疾患の影響も強く受けます。たとえば膵炎・胆管炎などの膵胆道系の炎症,糖尿病,胃炎,急性・慢性肝炎,肝硬変,気管支炎・気管支囊胞などの肺疾患,子宮内膜症や卵巣囊腫などの良性婦人科疾患などでも高値を示すことがあります。また,膵癌以外の悪性腫瘍,たとえば胆管癌,胆囊癌,胃癌,大腸癌,肺癌,子宮体癌,卵巣癌などでも陽性となります。

膵癌術後3年が経過し,腫瘍マーカーが経時的に上昇しCTでは再発が明らかでない場合には,①CTでは発見されていない再発がある可能性,②良性疾患の影響,③他の悪性腫瘍の可能性,の3つを考え対処します。①③については,必要に応じてPET検査,MRI,上・下部消化管内視鏡,婦人科対診などを行います。また②については,良性疾患併存の可能性を検討し,必要に応じてその対処をします。

腫瘍マーカーが上昇してきたからといって,再発と決めつけて慌てて化学療法をするのではなく,再発の確定診断は,あくまでも画像によるエビデンスと腫瘍マーカーの総合診断で行うべきです。

【文献】

1) Uesaka K, et al:Lancet. 2016;388(10041):248-57.

【回答者】

上坂克彦 静岡県立静岡がんセンター院長代理/ 肝胆膵外科部長

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