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吐血・下血・血便

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  • ■緊急時の処置

    OMI:酸素投与(oxygen:O),モニタリング(monitoring:M),ルート確保(IV line:I)を行う。ルートは2本・16G以上を確保する。18~20Gでも,晶質液は落ちるが輸血は粘性が高いため落ちにくい。また,循環血液量低下に対しては晶質液の急速滴下で対応するが,静脈瘤からの出血が疑われる場合には門脈圧が上昇しないよう,過剰な補液を行わないようにする。

    輸血を行う場合はクロスマッチを行うが,間に合わない場合はタイプマッチ,それも間に合わない場合にはRBCはO型を輸血し,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma:FFP)と血小板はAB型を用いる。

    凝固異常にはFFP投与を考慮する。血小板減少(<5万),アスピリンなど抗血小板薬を内服中の場合,血小板投与を考慮する。

    凝固能が低下するため,体温低下に注意する。輸血も補液も加温しつつ投与する(補液は40℃)。

    輸血製剤中のEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)によるCaの低下に注意する。

    虚血性心疾患,慢性呼吸不全,高齢者の目標ヘモグロビン濃度は高めに設定する(>9g/dL)。

    緊急内視鏡による止血術中は,スタッフ全員が内視鏡の画面に集中するため患者監視をおろそかにしがちである。患者の呼吸・循環を注視するスタッフを1人指名しておくべきである。

    頻回に吐血がみられる場合は血液の誤嚥のリスクが高い。止血術に要する時間と侵襲を勘案し,rapid sequence inductionによる気管挿管を考慮する。

    ■検査および鑑別診断のポイント

    【検査】

    輸血を念頭にクロスマッチ,血算(Hb,Htは急性期には低下していない,急性出血による貧血は正球性,慢性の出血による貧血は小球性),凝固系(PT,INR)を行う。

    肝機能,腎機能については,造影剤を使用した検査,治療を行う可能性も考慮する。クレアチニン値に不釣り合いなBUN値の上昇は,腸管内にある血液が吸収されたことにより上昇した可能性を疑う。

    【鑑別診断】

    吐血は通常Treitz靱帯までが出血源である。下血はすべての消化管内の血液が原因となりうる。

    血液が胃酸と反応すると,コーヒー残渣のような黒い粒あるいは岩海苔状のものになる。

    左側の結腸より肛側の出血は鮮紅色,右側の結腸の出血は暗赤色を呈するが,通常の便と混ざる場合がある。

    上部消化管や小腸由来の血液はタール便になる。出血源が肛門に近いほど,また腸管の通過時間が短いほど,血液に近くなる。50mLほどの出血でも,タール便として認識される便になる。

    下血が明らかではない場合は愛護的に直腸診を行う。尿検査のテープを使って鮮血を判断することができる。

    便潜血は,出血していても血液が下りてきていなければ陰性であり,止血後も2週間は陽性に出る。

    ■落とし穴・禁忌事項

    全身倦怠感,起立性低血圧や失神,原因不明のショックの原因が消化管出血の場合がある。

    吐血が認識されることは多いが,洋式便器の普及により自分の便の性状を認識することが減ったため,下血については認識されにくい。

    一度飲み込んだ鼻出血を嘔吐すると吐血に見える。喀血と吐血を間違えることもある。

    高齢者は腹痛などの症状が出にくい。出にくいだけで,ないわけではないので注意が必要である。

    吐血した血液によって誤嚥性肺炎をきたした場合は,口腔内の嫌気性菌を含む複数菌による感染を念頭に置く。

    抗菌薬は一般に,スルバクタム/アンピシリンを用いる。緑膿菌をカバーしなければならない場合のみタゾバクタム/ピペラシリンを用いる。

    ■その後の対応

    上部消化管出血の有無について判断に迷う場合,胃管を挿入して胃洗浄を行い,排液を確認する。陰性であれば,幽門以降の出血源を疑う。排液に胆汁が混じっていたら,Treitz靱帯より口側まで評価したと考えられる。ただし,活動性出血でも胃洗浄で所見がないものが15%あるとされており,注意が必要である。

    挿入された胃管を使ってカメラ前に胃洗浄を行い,小さな凝血隗など止血処置の邪魔になるものをある程度排除することはできる。薬物(エリスロマイシン3mg/kgを30分で持続静注,もしくはメトクロプラミド10mg静注)によって胃を動かし,同様の効果を期待できる。いずれも,内視鏡術者の意向を確認する。

    食道静脈瘤は,内視鏡的結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)を行う。EVLがうまくいかない場合,内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)を行う。すぐに内視鏡的止血術が行えない場合は,Sengstaken-Blakemore tubeによる圧迫止血を考慮する。施行する場合は24時間を超えないようにし,挿管管理とする。

    薬物:ソマトスタチンアナログ(サンドスタチン®)50μgをまず静注し,その後50μg/時で持続静注する。抗菌薬は,セフトリアキソン(ロセフィン®)もしくはアモキシシリン/クラブラン酸もしくはキノロン系を用いる。

    上部消化管の出血は,内視鏡で食道,胃,十二指腸下行脚程度までは観察し,出血源を特定するほか,クリッピング,高張ナトリウム・エピネフリン局注,アルゴンレーザー焼灼等,止血の処置を行うことができる。

    薬物:疑い例も含めて,プロトンポンプ阻害薬を静注する(北米では40mg,わが国では1回20mg)。

    下部消化管の出血は,8割が自然止血する。死亡率は2~4%で,予後は良い。

    カメラや血管造影で,直腸からS状結腸にかけての出血が見つかった場合には止血を試みる。

    憩室や血管異形成からの間欠的な出血は,出血源の特定が難しい。1.0mL/分ほどの出血であれば血管造影で出血源を特定できる。核医学テクネシウムによる赤血球シンチグラフィーでは,0.5mL/分程度の出血を診断することが可能である。

    【執筆者】 佐藤朝之(市立札幌病院救命救急センター医長)

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