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おわりに[【実践】ちょいたし漢方]

No.4683 (2014年01月25日発行) P.116

新見正則 (帝京大学外科准教授)

登録日: 2014-01-25

最終更新日: 2017-10-19

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漢方の魅力は,乱暴な言い方をすれば「何でも治る可能性がある」ということです。西洋薬が純物であるのに対して,漢方薬はたくさんの成分を含んだ生薬の足し算の結晶なのですから。そんな魅力を感じ取って頂きたく,巻頭言にも書きましたが,可能な限り,がっちりタイプには大柴胡湯(8)を,女性には当帰芍薬散(23)を,高齢者には真武湯(30)を,そして子どもには五苓散(17)または小建中湯(99)を配置しました。こんな思い切った,ある意味馬鹿げているようなことが,実は漢方の魅力です。

虚弱なタイプには,補中益気湯(41)や十全大補湯(48)などの参耆剤,または六君子湯(43)や四君子湯(75)などの人参剤,そして小建中湯(99)などの建中湯類が愛用されます。参耆剤や人参剤を用いる治療は西洋薬と併用しても十分すぎる効果があると思います。漢方らしい治療方法のひとつです。

参耆剤や人参剤と並んで漢方らしい治療は駆瘀血剤です。最初は理解しがたい概念ですが,瘀血を治す薬を駆瘀血剤と理解するとわかりやすいと思います。そんな定義のほうが,処方選択に有用であるぐらい駆瘀血剤の使用範囲は広汎です。
漢方理論はあえて詳細に説明していません。漢方理論は漢方に興味を持った後に,処方選択の手段と割り切って利用することが肝要です。漢方理論は処方選択のアナログ的経験知なので,デジタル化された西洋医学的考えからはある意味かけ離れています。
すべての漢方理論を理解する必要はありません。むしろ,そんなことをすると一気に嫌気がさします。漢方はアナログ的経験知の集積のため,いくつもの相反する,矛盾した漢方理論が並立することもあります。極論すれば宗教のようなものです。特別に間違っていなければ,何でも併存しうるということです。処方選択のヒントと割り切って,自分が理解しやすい漢方理論を手に入れて,その後,より理解しやすい漢方理論があれば,適宜入れ替えていきましょう。そんな気軽な立ち位置が西洋医には何より大切です。西洋医にとっての漢方は患者さんを救うためのオプションです。

西洋医学の補完医療として,保険適用漢方薬が益々普及し,1人でも多くの患者さんが漢方の恩恵により症状が軽快することを祈っています。この本が少しでもそのお役に立てれば幸せです。

2013年9月12日,ハーバード大学にて,イグノーベル賞を頂きました。脳が免疫系をコントロールしている可能性を示す実験を踏まえての受賞です。イグノーベル賞はありえないような(improbable)実験で,人々を笑わせ,そして考えさせる(research makes people laugh and then think)世界的研究に与えられます。今回の私の実験は,心臓移植をされたマウスにオペラ『椿姫』を聴かせると,免疫制御細胞が誘導されるというものです。

今回の実験は,環境が脳を介して免疫系を制御しているので,本人の心の持ちよう,気合い,希望,家族の支え,また闘病環境が大切であるということに通じる結果です。漢方薬の治療も有効ですが,日常生活の管理も大切ということです。

最後に,刊行にあたり大変お世話になった樫尾明彦先生,村上由佳さんに御礼申し上げます。

【著者紹介】
新見正則 (帝京大学外科准教授)
移植免疫学のサイエンティストで,漢方とトライアスロンが趣味の外科医。イギリス留学中にとても感動したオペラ『椿姫』をマウスに聴かせると,移植された心臓が拒絶されないという実験にて2013年イグノーベル賞医学賞受賞。
慶應義塾大学医学部卒業。英国オックスフォード大学医学部博士課程にて移植免疫学を学び,Doctor of Philosophy(DPhil)取得。英国留学中の5年間,オペラやクラシック音楽を生で堪能する。現帝京大学医学部外科准教授。臨床医としての専門は血管外科。大学病院としては本邦初のセカンドオピニオン外来を開設し,セカンドオピニオンのパイオニアとして知られる。セカンドオピニオンを通じて西洋医学の限界に気がつき,漢方を松田邦夫先生に学び,モダン・カンポウの啓蒙者として活躍中。
50歳までは金槌で運動嫌いであったが,娘の誘いで水泳を始め,3年後には佐渡国際トライアスロンAタイプ236km(スイム3.8km,自転車190km,ラン42.2km)を14時間18分58秒で完走する。いろいろなことに興味があるおじさん。家族は,家内・娘(10歳)・母・愛犬(ビション・フリーゼ)。

●文献

  ▶ 松田邦夫:症例による漢方治療の実際. 創元社, 1992.
▶ 松田邦夫:万病回春解説(POD版). 創元社, 2009.
▶ 松田邦夫, 他:漢方治療のファーストステップ. 第2版. 南山堂, 2011.
▶ 松田邦夫, 他:臨床医のための漢方[基礎編]. カレントテラピー, 1987.
▶ 大塚敬節:大塚敬節著作集 第1巻〜第8巻 別冊. 春陽堂書店, 1980〜1982.
▶ 大塚敬節, 他:漢方診療医典. 第6版. 南山堂, 2001.
▶ 大塚敬節:症候による漢方治療の実際. 第5版. 南山堂, 2000.
▶ 稲木一元, 他:ファーストチョイスの漢方薬. 南山堂, 2006.
▶ 大塚敬節:漢方の特質. 創元社, 1971.
▶ 大塚敬節:漢方と民間薬百科. 主婦の友社, 1966.
▶ 大塚敬節:東洋医学とともに. 創元社, 1960.
▶ 大塚敬節:漢方ひとすじ:五十年の治療体験から. 日本経済新聞社, 1976.
▶ 日本医師会, 編:漢方治療のABC:日本医師会雑誌. 1992;108(5).
▶ 大塚敬節:歌集 杏林(非売品). 春陽堂書店, 1976.
▶ 新見正則:本当に明日から使える漢方薬 7時間速習入門コース. 新興医学出版社, 2010.
▶ 新見正則:本当に明日から使える漢方薬シリーズ2 フローチャート漢方薬治療. 新興医学出版社, 2011.
▶ 新見正則:本当に明日から使える漢方薬シリーズ3 簡単モダン・カンポウ. 効率的に勉強する画期的かつまったく新しい漢方勉強メソッド. 新興医学出版社, 2011.
▶ 新見正則:iPhoneアプリ「フローチャート漢方薬治療」. 新興医学出版社, 2012.
▶ 新見正則:本当に今日からわかる漢方薬シリーズ1 鉄則モダン・カンポウ.モダン・カンポウのよりよい使い方の知恵を鉄則としてまとめました. 新興医学出版社, 2012.
▶ 新見正則:本当に今日からわかる漢方薬シリーズ2 症例モダン・カンポウ.ウロウロしながら処方して腑に落ちました. 新興医学出版社, 2012.
▶ 新見正則:本当に今日からわかる漢方薬シリーズ3 飛訳モダン・カンポウ拾い読み蕉窓雑話. 新興医学出版社, 2013.
▶ 松田邦夫, 他:西洋医を志す君たちに贈る漢方講義.魅力的な授業をするために. 新興医学出版社, 2012.
▶ 新見正則:じゃぁ,死にますか?リラックス外来トーク術. 新興医学出版社, 2011.
▶ 新見正則:じゃぁ,そろそろ運動しませんか?西洋医学と漢方の限界に気がつき,トライアスロンに挑戦した外科医の物語. 新興医学出版社, 2011.
▶ 新見正則:じゃぁ,そろそろ減量しませんか?正しい肥満解消大作戦.新興医学出版社, 2012.
▶ 新見正則:西洋医がすすめる漢方. 新潮社, 2010.
▶ 新見正則:下肢静脈りゅうを防ぐ・治す. 講談社, 2002.
▶ 新見正則:プライマリー・ケアのための血管疾患のはなし—漢方治療も含めて. メディカルレビュー社, 2010.
▶ 新見正則:仕事に効く!モダン・カンポウ. イーストプレス, 2013.

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