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血液病学[特集:臨床医学の展望2014]

No.4686 (2014年02月15日発行) P.36

金倉 譲 (大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学教授)

登録日: 2014-02-15

最終更新日: 2017-09-15

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活気に満ちた医療現場─基礎研究成果の臨床への応用

2013年の血液病学の臨床においても,新規の分子標的療法の開発,臨床導入が続いている。再発慢性リンパ性白血病(chronic lym­phocytic leukemia;CLL)に対する第2世代の抗CD20抗体オファツムマブが上市され,さらに骨髄線維症(myelofibrosis)に対するJAK(Janus kinase)1/2阻害薬ruxolitinib,ホジキン病に対する抗癌剤結合抗CD30抗体brentuximab vedotinの臨床試験が終了し,近々臨床現場に導入される予定である。また,B細胞性リンパ系腫瘍に対する新規の分子標的薬BTK(Bruton’s tyrosine kinase)阻害薬ibrutinibはグローバル臨床試験が開始されている。きわめて有望な新規薬剤が我が国においてもドラッグ・ラグなく臨床導入できる体制が確立されつつある。

全ゲノムシークエンシング(whole genome sequencing;WGS),全エクソームシークエンシング(whole exome sequencing;WES)による造血器腫瘍の遺伝子解析は急速に進み,特に多数例や時系列での解析が報告されている。急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)では50例のWGS,150例のWESの計200例でのゲノム解析がなされ,AMLのcoding sequenceの遺伝子異常は9のカテゴリーに分類され,各遺伝子群の共存性,排他性などの相互関係が明らかとなっている。The New England Journal of Medicineのエディトリアルに“The beginning of the end of the beginning in cancer genomics”と紹介されているように,まさにAMLのcoding領域の主な遺伝子異常はほぼ網羅されたと言える。

今後はこれらの遺伝子異常の病態形成,予後における意義,さらにはnon–coding領域の遺伝子異常についての解析が残された課題と言える。CLLでは160例のWES解析が報告されている。前記のAMLの研究でも確認されているが,CLLにおいても主たる腫瘍クローンであるfounding cloneとともに,遺伝子異常の一部異なる少数のsubcloneが存在する例があり,特に化学療法によりfound­ing cloneと異なったdriver変異を持つsubcloneが選択されること,また治療前に異なったdriver変異を持つsubcloneが存在することは予後不良因子となることが示されている。実臨床でCLLにおいては病期進行まで治療を行わないという原則を裏づける結果と言える。今後,これら複数の遺伝子変異を標的とした治療法の開発が進むことが期待される。

抗体療法は,腫瘍性疾患のみならず他の血液疾患にも対象が広がっている。特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP)や後天性血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura;TTP)は自己抗体による疾患であるが,難治例において抗CD20抗体リツキシマブの有効性が報告されている。さらに非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic-uremic syndrome;aHUS)に対しては発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria;PNH)の治療薬である抗C5抗体エクリズマブの有効例が報告され,保険収載されている。

以上,様々な難治性の血液疾患において,その分子病態の解明に基づいた新規の治療法の開発,導入が進みつつあり,さらなる予後の改善につながることが期待される。

最も注目されるTOPICとその臨床的意義
TOPIC 1/新規治療薬出現により見直される治療戦略
DNA複製,染色体分配,細胞周期進行,細胞死制御など様々な生命現象に関わる分子機構の解明に伴い,造血器腫瘍における鍵分子を標的とした新規治療薬の開発が盛んに行われている。新しい作用機序を持つものや第2世代と言われるものを含めて,想像をはるかに超える新規薬剤が登場しようとしている。

この1年間の主なTOPICS
1 新規治療薬出現により見直される治療戦略
2 ゲノム情報蓄積に伴う疾患概念の変化
3 腫瘍幹細胞を廃絶する─免疫療法を中心に
4 造血幹細胞移植の現状と問題点
5 血小板/凝固系の新しい制御法

TOPIC 1▶‌新規治療薬出現により見直される治療戦略

骨髄線維症は,造血組織である骨髄に線維化が起こり,髄外造血や巨脾および倦怠感・寝汗・体重減少などの身体症状を特徴とする疾患である。本疾患の原因がJAK2遺伝子変異をはじめとしてJAK-STAT(JAK-signal transducer and activator of transcription)経路の恒常的な活性化であることが明らかにされ,いくつかのJAK阻害薬の開発につながった。特にJAK1/JAK2を標的とするruxolitinibにおいては無作為・二重盲検・プラセボ試験COMFORT-Ⅰや現状最良治療と比較したCOMFORT-Ⅱを通じて,脾腫の著明な縮小や身体症状改善に伴って生活レベルの向上が認められることが明らかにされた。また,貧血と血小板減少など有害事象が認められるものの,認容範囲内であった。さらに,COMFORT-Ⅱ試験を3年間フォローした結果が報告された1)。ruxolitinibは長期使用が可能で,前述の効果が持続することに加え,生存期間を延長させることが示された。

2013年,原発性骨髄線維症に加え真性多血症や本態性血小板血症から移行した骨髄線維症を対象としたアジアにおける治療成績試験(A2202試験)が終了し,欧米での試験と同様にruxolitinibの有効性と安全性が確認された。この試験結果に基づいて,現在,新しい骨髄線維症治療薬として日本での製造販売承認申請が行われている。

従来有効な治療法に乏しかった骨髄線維症に対して心強い治療薬が出現した。しかし,ruxolitinib治療のみでは変異JAK2陽性細胞率の減少や消失が観察されないことも報告されており,ruxolitinibとmTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬やHDAC(histone deacetylase)阻害薬などとの併用療法開発の可能性も考えられている。
リンパ組織微小環境との相互作用を通じて,B細胞受容体から細胞増殖や生存シグナルが提供される。このシグナルの主要な伝達分子であるSYK(spleen tyrosine kinase)やBTKなどを阻害することでB細胞性リンパ系腫瘍を治療する試みがなされている。再発性/難治性の慢性リンパ性白血病(CLL)や小リンパ球性リンパ腫に対して,経口BTK阻害薬ibrutinibが高い有効性と安全性を持つことが報告された2)。26カ月時点で高い無増悪生存率(75%)や全生存率(85%)を示しただけでなく,17p13欠失や前治療数などの予後不良因子群にも十分な効果が認められる。ibrutinibの有用性は活性化B細胞型びまん性大細胞性リンパ腫やマントル細胞リンパ腫においても報告された3)
brentuximab vedotinは,微小管重合阻害薬monomethyl auristatin Eを抱合したキメラ型抗CD30抗体で,腫瘍細胞表面にCD30を発現しているホジキンリンパ腫や未分化大細胞型リンパ腫に対し永続的な完全奏効を含む高い有効性が確認されている。米国や欧州では,すでに再発性/難治性の両疾患に対する販売が承認されており,日本においても現在申請中である。加えて,再発性皮膚T細胞性リンパ腫やフロントラインにおけるホジキンリンパ腫への第Ⅲ相試験が進行中である。
今回紹介した薬剤だけでなく,多くの分子標的薬の開発が進められており,造血器腫瘍の治療成績の向上が期待できる。
(織谷健司)

◉文 献

1) Cervantes M, et al:Blood, in press.

2) John C, et al:N Engl J Med. 2013;369(1): 32-42.

3) Michael L, et al:N Engl J Med. 2013;369 (6):507-16.

TOPIC 2▶ゲノム情報蓄積に伴う疾患概念の変化

次世代シークエンシング技術と解析コンピュータの性能の向上によって,全ゲノム塩基配列や全エクソン塩基配列の解析が短時間・低コストで行えるようになった。これらの技術を急性白血病などの腫瘍性血液疾患の腫瘍細胞に応用し,腫瘍細胞にどのような遺伝子変異が起こっているか明らかにすることが可能となった1)

これまで,白血病細胞に起きている遺伝子異常を知るためには,G-バンド法などで染色体分析を行い,転座や欠失などの染色体異常が見られる場合は,その異常部位の遺伝子を解析するという方法が一般的であった。また,既知の癌遺伝子や癌抑制遺伝子の塩基配列を解析し,異常の有無を検出することは可能であったが,網羅的に行うことは困難であった。全ゲノム解析あるいは全エクソン解析を行うことで,染色体異常を認めない場合も含め,網羅的に遺伝子変異を検出することが可能となり,ここ数年の間に,これまで知られていなかった遺伝子の異常が次々と明らかにされ,病態解明や診断・治療への応用が進んでいる。腫瘍性血液疾患において,最近明らかにされた遺伝子の異常について紹介する。

最初に急性骨髄性白血病(AML)の白血病細胞の全ゲノム解析あるいは全エクソン解析が行われ,これまでAMLでは知られていなかった遺伝子の変異が相次いで報告された。2009年にIDH1遺伝子,2010年にDNMT3A遺伝子,2011年にBCOR遺伝子の変異が,それぞれ1症例の解析から発見され,その後に多数例のAMLで検証されたところ,それぞれ,16%,22%,4%の割合で遺伝子の変異が認められることが明らかとなった。2012年には,24症例の全ゲノム解析が行われ,上記の遺伝子以外に,NMP1,TET2,RUNX1,ASXL1,SMC1A,SMC3,STAG2などの遺伝子の変異が新たに同定された。

これらの遺伝子は,DNAメチル化など遺伝子発現に関わるエピジェネティック制御に関連する遺伝子群や,転写制御に関連する遺伝子群,細胞分裂の際に染色体を正確に分配するために必須な役割を持つ蛋白複合体(cohesin複合体と呼ぶ)を形成する遺伝子群であり,これまでAMLの発症に関わるとされてきた細胞増殖,抗アポトーシス,細胞分化に関する遺伝子群とは異なる働きをすることが明らかとなった。これらの遺伝子がAMLの病態形成にどのように関連しているかは不明な点があるが,今後,明らかになれば治療標的分子の候補となる可能性がある。

次に,我が国で骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)に対し同様の検討がなされ,29症例の全エクソン解析の結果,SF3B1遺伝子をはじめとするRNAスプライシングに関わる6つの遺伝子の変異が16例(55.2%)に同定された。MDSの病態形成にRNAスプライシング異常がどのように関わっているか不明であるが,複雑なMDSの病態を解明する糸口となると思われる。

リンパ系腫瘍においても,慢性リンパ性白血病(CLL)でNOTCH1遺伝子,マクログロブリン血症でMYD88遺伝子,ヘアリーセル白血病でBRAF遺伝子,T細胞性大顆粒リンパ球性白血病でSTAT3遺伝子の変異が高率に認められることが分かった。これらの遺伝子の異常は,診断のため,あるいは治療標的分子として日常臨床に登場する日は遠くないと思われる。
(柴山浩彦)

◉文 献

1) Kohlmann A, et al:Br J Haematol. 2013; 160(6):736-53.

TOPIC 3▶腫瘍幹細胞を廃絶する─免疫療法を中心に

近年,集学的治療の進歩により,造血器腫瘍の治療成績は着実に向上しているが,完全に治癒に至るものは限られている。

チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor;TKI)は当初,慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia;CML)を完全に制覇したかに見えたが,CML幹細胞を排除できず,薬剤中止における再発の原因となる。一方,同種移植が有効にCMLの幹細胞を廃絶し患者を治癒に導くこと,一卵性双生児間移植における再発率が高いことなどから,腫瘍幹細胞の廃絶には免疫システムが重要であることは今や論を俟たない。

欧州Nordic Study Group,GIMEMA Working Party,イスラエルのグループは,イマチニブにpegylated interferon(PEG-IFN)を併用することにより高率に分子生物学的寛解(major molecular response;MMR)を得たと発表した。IFNは,その殺細胞・増殖抑制効果だけでなく,免疫増強作用が今また注目されているのである。

CMLの抗原特異的免疫療法としては,bcr-ablの融合点を標的としたペプチドワクチン療法があるが,免疫原性については疑問の声もある。一方,AML,MDS,CMLにおいて腫瘍特異的に発現増強を認めるプロテアーゼ3(PR3)やウィルムス腫瘍抗原(WT1)は免疫療法の強力な標的であり,すでに多くの臨床試験が行われている。その他,CLL,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫におけるidiotype,悪性リンパ腫におけるsurvivin,様々ながんに特異的に発現している癌精巣抗原MAGE(melanoma associated antigen)やNY-ESO-1を標的としたワクチン療法が開発されている。

近年,免疫応答におけるT細胞のネットワーク機構,癌細胞が腫瘍免疫を回避する機構などについて明らかにされてきた。

がん細胞はIL-10やTGF-βなどのサイトカイン分泌を介して制御性T細胞(Treg)の活性化,エフェクターT細胞の抑制を促すことが明らかにされている。cytotoxic T-lymphocyte antigen 4(CTLA-4)はTregを活性化し,T細胞応答を抑制する分子であるが,抗CTLA-4抗体(ipilimumab)は腫瘍免疫活性化薬剤としてFDA(Food and Drug Administration)にすでに認可された。また,抗原提示細胞とTregやTh17細胞との間でT細胞受容体との共刺激分子として働くPD-1(programmed cell death-1)/PD-L1(programmed cell death ligand-1)を標的とした抗体製剤や,PD-L1特異的細胞傷害性T細胞による細胞療法1)が開発されている。さらに,CCR4(chemokine receptor type 4)がTregに発現していることから,ATL(adult T cell leukemia)の治療薬として開発された抗CCR4抗体がTregを除去し,抗腫瘍免疫応答を惹起することも示され2),抗腫瘍効果が期待されている。

また,癌細胞にはHLA(human leukocyte antigen)分子や共刺激分子の発現の消失・低下を介して免疫から逃れる機構がある。ヒストン脱アセチル化阻害薬(histone deacetylase inhibitors;HDACi)はそのアポトーシス誘導と増殖抑制効果以外に,IFN-γと同様,HLA分子の発現を回復させることにより,腫瘍免疫における免疫賦活作用を発揮すると考えられている。

一方,白血病幹細胞を直接標的とする工夫も試みられている。白血病幹細胞は造血幹細胞と同様にnicheに守られ,静止期を維持することで抗癌剤やTKIへの抵抗性を示すことが明らかにされているが,nicheへのホーミングに関わるケモカインCXCR4のアンタゴニストであるplerixaforや,骨芽細胞を活性化し,骨髄nicheの環境を変化させるparathyroid hormone(PTH)は「脱niche」により,またユビキチンリガーゼFbxw7はc-Mycを蓄積させ「脱静止期」により3),化学療法反応性を回復させることが期待されている。
(江副幸子)

◉文 献

1) Ahmad SM, et al:Leukemia. 2013[Epub ahead of print]

2) Sugiyama D, et al:Proc Natl Acad Sci USA. 2013;110(44):17945-50.

3) Takeishi S, et al:Cancer Cell. 2013;23 (3):347-61.

TOPIC 4▶造血幹細胞移植の現状と問題点

造血幹細胞移植は,「骨髄移植の父」と讃えられるE.D.Thomas博士により1960年代後半に創始され, 現在,日本で年間2500例を数えるまでになっている。本項では,造血幹細胞移植の現状とともに,問題点や展望について簡単に述べる。

現在,同種造血幹細胞移植を考慮する際には,血縁・非血縁HLA一致ドナーだけでなく,臍帯血やHLA半合致ドナーなど多様なドナーソースを得られるようになった。そのため個々の症例とドナーソースに適した移植片対宿主病(graft versus host disease;GVHD)の予防・治療や,免疫療法としての移植後のマネジメントは,移植の成否に多大な影響を与えることとなる。急性GVHDや慢性GVHDは予後やQOLの低下を及ぼす重要な要因である。ステロイド不応性の重症GVHDの多くはその治療に難渋する。

GVHDの治療には,カルシニューリン阻害薬に加えてalemtuzumab,インフリキシマブ,エタネルセプトなどが使用されている。また,海外では前処置にウサギ抗胸腺グロブリン(rabbit–derived anti–thymocyte globulin;rATG)を加えることで急性・慢性GVHDの改善が報告されているが,投与量については一定しておらず,GVHDの改善についても様々である。一方,我が国では減量rATGの使用のまとまった報告はなく,またその長期の効果についても明らかでないために, rATG減量投与によるGVHD予防が試みられている。一方でEBウイルスの再活性化による移植後リンパ増殖性疾患(post-transplant lymphoproliferative disorder;PTLD)が問題となっており,今なお検討が必要である。

新しいGVHDに対する細胞療法として間葉系幹細胞(mesenchymal stem/stromal cell;MSC)が注目されている。これらは脂肪・骨・軟骨細胞に分化能を有する細胞群の総称であるが,その免疫調整能に注目し応用が期待されている。いち早く研究の進んだ骨髄由来のMSCに加えて,近年脂肪や胎児付着物(胎盤・羊水・臍帯など)由来の細胞群もMSCと同様の性質を保持することが報告されている。MSCはHLA ClassⅡ抗原を持たないため,必ずしもドナーソースと同一である必要はなく,第三者からの提供により投与することが可能とされている。最近Intronaら1)は成人および小児に対し,Ballら2)は小児のステロイド不応性のGrade Ⅲ~Ⅳ GVHDに対して複数回MSCを投与し,有効であったと報告した。一方,その高度な免疫抑制能のために感染症や肺合併症のコントロールに難渋するという報告もあり,今後の検証が待たれる。

造血幹細胞移植後の再発例には厳しい予後が予測されるが,ドナーリンパ球輸注やDNAメチル化阻害薬であるアザシチジンなどによる治療は,再移植を検討する前に考慮できる治療選択である。また我が国においては,移植後再発が懸念されるHLA-A2402保有症例でのWT1ペプチドワクチン療法なども試みられ,移植後の個々の現疾患の病期に至適な薬剤の投与法など,検討すべき課題は多い。

今後は造血幹細胞移植を治療の終着点と考えるより,寛解導入,地固め,移植前治療,造血幹細胞移植,移植後維持療法といった一連の治療の1つのパートという考え方が主流になってきていると言え,新たな治療概念の構築が期待される。
(福島健太郎)

◉文 献

1) Introna M, et al:Biol Blood Marrow Transplant, in press.

2) Ball LM, et al:Br J Haematol. 2013;163 (4):501-9.

TOPIC 5▶血小板/凝固系の新しい制御法

我が国の特発性血小板減少性紫斑病(ITP)では,ピロリ菌除菌成功例の60~70%に血小板増加反応が認められて以降は,難治性ITP患者の治療に課題が残されていた。この課題を大きく進歩させたのが,トロンボポエチン受容体作動薬である。ITP患者では血小板数が減少しているにもかかわらず,トロンボポエチン濃度が十分に増加しておらず,巨核球造血の刺激が不十分である。トロンボポエチン受容体作動薬のロミプロスチムやエルトロンボパグは,トロンボポエチン受容体の膜貫通ドメインを介して細胞内のJAK-STAT経路やMAPK(mitogen-activated protein kinase)経路を活性化し,巨核球の分化・増殖を促進して血小板産生を増加させる。トロンボポエチン受容体作動薬は難治性慢性ITPの60~95%に血小板増加反応を認めた。

2012年に日本血液学会誌の「臨床血液」に発表された「成人ITP治療の参照ガイド」1)では,ステロイド,摘脾に次ぐ三次治療として位置づけられている。海外でも,2011年の米国血液学会(The Amer­ican Society of Hematology;ASH)のガイドライン2)で摘脾と同じ二次治療として位置づけられており,摘脾を回避する治療法としても評価されている。このトロンボポエチン受容体作動薬は,再生不良性貧血患者への第Ⅱ相試験で有効性が報告されており3),国内でも臨床試験が予定されている。

近年,抗体医療の対象が血小板,凝固系疾患にも広がっている。1つはITPや後天性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)に対するB細胞性リンパ腫治療薬の抗CD20抗体のリツキシマブであり,もう1つは非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)に対する発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬の抗補体(C5)抗体エクリズマブである。リツキシマブはASHの「ITPガイドライン」で二次治療に位置づけられ,トロンボポエチン受容体作動薬同様,摘脾を回避する治療法としてその効果が評価されている。国内では,慢性ITPに対するリツキシマブの医師主導治験が終了し,ITPへの適応が検討されている段階である。

後天性TTPでは,von Willebrand因子の切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with a thrombospondin type 1 motif,member 13)に対するIgG型の自己抗体が産生され,ADAMTS13活性が著減している。血漿交換療法の早期導入により,後天性TTPの予後は著明に改善したが,血漿交換療法の問題点として,外因性の対応抗原刺激によって,自己抗体産生を亢進させる危険性が挙げられる。リツキシマブは,血漿交換開始7~10日後にAD AMTS13インヒビター力価が急上昇するinhibitor boostingや再発TTPに対して,有効性が報告されている。国内では医師主導型治験が計画されており,保険適用が期待される。

aHUSに関しては,2013年に日本腎臓学会と日本小児科学会から診断ガイドラインが発表され,志賀毒素によるHUSとADAMTS13活性著減によるTTP以外の血栓性微小血管障害で,微小血管症性溶血性貧血,血小板減少,急性腎障害を三主徴とする疾患であると定義された。aHUSの原因として近年注目されているのが,補体活性化制御因子の遺伝子異常であり,臨床試験での抗補体(C5)抗体エクリズマブの有効性が報告されている4)。我が国でもaHUSに対するエクリズマブの使用が承認された。

播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation;DIC)の治療薬として遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤が2008年より使用可能となり,2009年の「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス」にも組み込まれた。エビデンスレベルは2bであるが,我が国初の治療薬であり,今後の評価が期待される。
(田所誠司)

◉文 献

1) 藤村欣吾, 他:臨床血液. 2012;53(4):433-42.

2) Neunert C, et al:Blood. 2011;117(16): 4190-207.

3) Olnes MJ, et al:N Engl J Med. 2012;367 (1):11-9.

4) Legendre CM, et al:N Engl J Med. 2013; 368(23):2169-81.

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