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【プライマリケア医のためのがん疼痛緩和入門】(1)まずはアセトアミノフェンで開始する[プライマリケア・マスターコース]

No.4690 (2014年03月15日発行) P.44

梁 勝則 (林山クリニック希望の家院長)

登録日: 2014-03-15

最終更新日: 2017-08-07

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プライマリケア医が担う緩和医療とは

がん(悪性腫瘍)は今やありふれた疾患である。国民の半分が生涯のうち1度以上かかり,1/3がそのために生涯を閉じる。観点を移動すれば,現在私たちの外来に通っている糖尿病や高血圧患者の相当数が将来,がんにかかってしまうということである。

筆者が在宅緩和ケアに携わりはじめて20年余であるが,医師としての基本的スタンスは緩和ケア専門医ではなく内科系総合医(プライマリケア医)である。主に取り扱う疾患は高血圧,糖尿病,動脈硬化合併症,認知症などの慢性疾患であるが,高齢化の進展に伴い緩和期に入った進行がん患者や認知症患者が近年つとに増加している。この2つの疾病は専門医だけでは十分カバーできないボリュームと特性を持ち,common diseaseの範疇に入りつつある。今後内科系開業医の守備範囲となっていくであろう。

もちろん,患者ががんになれば後は最期まで専門医にお任せというスタンスもありうる。しかし,治療期はともかくとして,緩和医療中心の時期に待ち時間の長い基幹病院の主治医,腫瘍内科医,緩和医療専門医などを巡るのは患者・家族にとってはかなりの心身の負担であり,可能であれば近くの診療所に通院したり訪問診療や訪問看護を受けたりするほうが患者のQOLに資することができる(表1)。



また,症状緩和に難渋した際には,紹介元の主治医や緩和ケアチームや放射線治療医が何らかの対応をしてくれるため,比較的容易にコンサルテーションできる。そして,筆者の経験では処方薬を匙加減することに慣れている医師であれば,緩和医療薬の使い方は存外難しいものではない。感覚的には近年複雑さを増す糖尿病治療薬の使い分けに近い感じである。参考書も筆者が緩和医療を始めた頃は分厚い訳書が中心であったが,昨今は中堅からベテランの緩和ケア医が著した入門的和書があまた出版され,日本の実情に即した良書もあるので,参考図書を末尾に提示する。

また,開業医や外来コマ数の多い中小病院医師には,頻回に患者を経過観察できるという大きなメリットがあり,毎日~数日おきの診察も可能である。大病院の1~2週間に1回や月1回の外来での疼痛コントロールに比べて,よりきめ細やかに迅速に症状緩和が達成可能で,また副作用についても迅速に対応可能である。

もちろん,多くの開業医にとって麻薬性鎮痛薬(オピオイド)の処方が大きなハードルとなっていることは筆者も理解しているが,対処法がある。まず,法的・管理的な問題については,処方箋を院外薬局に出せば発生する余地がミニマムになる。次に気になるのが医療用麻薬であるオピオイドの重篤な副作用であるが,増量を一般の薬のように,たとえばアムロジピンを2.5mgから5mgにするように倍増するのではなく,1.3~1.5倍までにとどめれば危険な副作用はまず起こることはなく,むしろ出血合併症リスクの高い消炎鎮痛薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)よりも安全である(表2)。



本稿ではまだ症状緩和に手馴れていない開業医ががん性疼痛緩和にどのように取り組んでいけばよいのか,その基本的な要点を記す。したがって,経験値の高い医師にとってははなはだ物足りない内容かもしれないが,開業医がどのようにして症状緩和に取り組めばよいかの指針になれば幸いである。本稿の内容は誌面の都合もありミニマムであるが,まずは1人の患者から症状緩和に取り組もうと考えている開業医にとって副作用もミニマムになるよう留意している。

また,診療報酬については悪性腫瘍の疼痛緩和に対する労に報いるべく「がん性疼痛緩和指導管理料」100点/月が算定可能であり,さらに「緩和ケアに係る研修」を受けた保険医による場合は200点が算定できる。土・日の2日間研修で算定可能となるし,初期研修としてはよくデザインされているので,ぜひとも受講をお勧めする。

筆者が心がけていること

1 症状緩和は症状緩和薬の副作用との闘いである

ほとんどすべての症状緩和薬はアセトアミノフェン以外,すべて潜在的に煩わしい,もしくは危険な副作用リスクをしばしば経験する。潰瘍予防に使われるプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor;PPI)で難治性の下痢をきたしたり,H2ブロッカーでせん妄になることさえある。したがって薬剤はできるだけ少量が好ましく,効果が十分であれば,常に減量して必要最少量で維持できるよう心がけている。

2 症状緩和の達成度と副作用について随時関係者に尋ねる

したがって,患者や患者の家族,また関わりのある訪問看護師や薬剤師など他の職種に,症状緩和の達成度と副作用を尋ねることが有用である。筆者と同じように,多くの開業医は日々の外来診療ほか諸々があり,1人の在宅患者について週1回程度の訪問診療が現実的な対応であろう。しかし,がんの痛みで苦しむ患者にとって1週間待つのは辛いことかもしれない。

その間隙を埋める術として,数日に1回程度患者宅に電話をして適宜処方変更するようにしている(電話再診)。また,訪問看護師や薬剤師からの情報も役立つことがあるため,医療機関から積極的に電話をすることは有益である。時間に余裕のない開業医の場合は,院内の事務職や看護師に業務を代行してもらうこともできる。

3 一度に変更する処方はできるだけ1種類に

処方を変更もしくは追加した後に出現する一見奇妙な症状は,薬の副作用ではないかと考え必ず減量や中止もしくは変更を考慮しているが,複数の処方の追加や変更の場合,原因の特定も困難になり対処に苦慮してしまう。変更薬が1種類であれば効果や副作用の評価が容易で対応しやすい。

4 薬の効果が不十分な時には緩和的放射線治療を考慮する

最近の放射線治療機器の進歩は目覚ましく,ピンポイント照射が可能な施設も増え,放射線治療により劇的に痛みが緩和することがあるため,内科的治療で効果不十分と思われる場合は放射線治療科に紹介している。

痛みはどの程度まで緩和すればよいのか。

痛みコントロールの到達目標は以下の3段階である。
①夜は痛みのために睡眠が中断されない
②昼間安静にしていれば痛みが生じない
③体動時にも痛みがない

最低,①が達成されないと在宅療養の継続は困難であるが,痛みの程度については患者自身に「これでよいかどうか」日々尋ねることが肝要である。また脊椎や下肢長管骨へのがん転移の場合,体動時の痛みのコントロールがしばしば困難であり,かつ放射線治療が有効な場合が多いため,紹介元もしくは放射線治療医にコンサルテーションすることをお勧めする。


まず,胃腸障害や腎機能障害などの自覚的・他覚的副作用の心配がほとんどないアセトアミノフェンから開始する。緩和治療はある意味,治療薬の副作用との戦いとも言えなくもないが,アセトアミノフェンはその心配をしなくてすむ唯一の薬と言っても差し支えない(表3)。


胃腸障害の副作用がないので空腹でも胃潰瘍の患者でも服用可能である1)。半減期が短いため1日4回6時間ごとの処方が必要となるが,ライフスタイルに合わせて毎食後と眠前でもよい。夜の痛みが軽度であれば1日3回でもよい。また肝機能障害を起こす可能性があることから処方前に血液検査を施行し,適宜モニタリングする。無症状であれば1~2カ月に1度,消化器症状や全身倦怠感などの症状発現があればその都度,採血を推奨する。

開始量は従来の鎮痛解熱薬使用時の倍以上が推奨である。そうでないと,まずがんの痛みには効かない。600mgを6時間おき(2400mg/日)からスタートし,疼痛緩和が不十分であれば,数日後(できるだけ1週間以内に。症状がある程度落ち着くまでは週2~3回の診察と処方追加をお勧めする),2400mg→3600mg(最大量4000mg/日)に増量する。ただし肝硬変やアルコール依存症がみられる場合,あるいは衰弱が著しい場合は,1日量を1500mg~2400mgにとどめる2)。散薬と錠剤の両方がある。錠剤はやや大きめであるが,赤ちゃんにも使える安全な薬であることを説明すれば,大抵は頑張って飲んでくれる。

以上の量まで増量してもまったく無効であればNSAIDsに切り替え,ある程度有効であれば切り替えではなくNSAIDsを追加する。なぜならば,アセトアミノフェンとNSAIDsは相加効果が期待できるからである。

また,すでに前医で症状緩和薬が処方されている場合でも,もしアセトアミノフェンが処方されていなければ,相加作用や相乗作用3)を期待して,上記の量で追加処方して効果を見ることを勧める。副作用のない薬で,患者の痛みが少しでも改善すれば信頼関係があっという間に築かれるであろう。

アスピリン喘息患者のうち,1/3がアセトアミノフェンでも喘息が起こることがあるため,その場合は少量を試験的に投与して反応を見る。



●文献

1) Twycross R, et al:トワイクロス先生の がん患者の症状マネジメント. 第2版. 武田文和 監訳. 医学書院, 2010, p33.

2) 大津秀一:間違いだらけの緩和薬選び. 中外医学社, 2013, p47.

3) Twycross R, et al:トワイクロス先生の がん緩和ケア処方薬. 武田文和, 他 監訳. 医学書院, 2013, p279.

●参考

▶ 『間違いだらけの緩和薬選び』――緩和ケアの熟達医が著した最新刊であり,きわめて実践的な入門書である。初心者の陥りやすいピットフォールがポイント(要点)として大変的確に記されている。ステロイドの使い方,胸腹水や腸閉塞への対処もわかりやすい。

▶ 『トワイクロス先生の がん緩和ケア処方薬』――症状緩和薬の副作用や相互作用は多彩なため,疑問が生じた時の辞書として有用である。一般的な添付文書よりもより実践的かつ詳細であり,反復学習効果によりマスターする時間の手間が省ける。

▶ 『トワイクロス先生の がん患者の症状マネジメント(第2版)』――前述の「間違いだらけの緩和薬選び」を一通りマスターした後,さらに緩和ケアを学ぶのに最適な図書である。倫理的な問題から緊急対応まで,緩和ケアに関わるほとんどの領域が網羅されている。

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