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在宅医療からみた高齢者のがんの痛みへの対処【適切なオピオイド使用と症状モニタリングを行うことで,できるだけ不要な入院を回避】

No.4810 (2016年07月02日発行) P.58

清水政克 (清水メディカルクリニック副院長)

登録日: 2016-07-02

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

高齢者のがんの痛みについて,在宅医療の観点からどのように対処したらよいでしょうか。清水メディカルクリニック・清水政克先生のご教示をお願いします。
【質問者】
新城拓也:しんじょう医院院長

【A】

最近,高齢がん患者において,その残された人生の時間を在宅で過ごす人たちが増えてきたように思います。また,高齢者では,がん以外に,非がん慢性疾患や認知機能障害を合併していることも多く,高齢者の在宅での症状緩和にはより個別性が求められるようにも思います。
高齢者のがんの痛みに対しても,若年成人と同じように適切にオピオイド(医療用麻薬)を使用することによって症状緩和を図ることができます。高齢者の在宅緩和ケアでは,症状が比較的軽く,また若年成人と同じ量のオピオイドを使用しても,より疼痛緩和効果が強いため,少量のオピオイドで適切な疼痛緩和が得られます(文献1)。これは,肝疾患や腎障害患者と同様に,高齢者では加齢によってオピオイドに対する感受性が亢進しているためと考えられています。そのため,高齢者では潜在的にオピオイドによる副作用のリスクも大きいと思われますので,少し注意が必要かもしれません。
経験的に,1つのオピオイドの効果が乏しかったことがすべてのオピオイドの効果が乏しいことを意味するわけではなく,在宅医療でもオピオイド・スイッチングによって,よりよい疼痛緩和を行うことができます。しかし,在宅の高齢がん患者では,実際はそれほどオピオイド・スイッチングは実施されていないようです(文献2)。その理由として,高齢者では少量のオピオイドで有効な疼痛緩和が得られること,突出痛の出現頻度が少ないこと,などが挙げられています。また,在宅医療においても最期の数日間は嚥下障害,認知機能低下,消化管通過障害などのために経口投与が困難となることが多いので,オピオイドの投与経路の変更が有用です(文献3)。高齢者ではオピオイドの経静脈投与は少なく,貼付剤の使用が多いようです。その一方で,特に高齢者の死亡前3日間については,オピオイドを皮下注射で投与することが多く,若年成人に比べて緩和的鎮静の必要性が低い,と報告されています(文献4)。
高齢者では,若年成人に比べて適切にオピオイドを投与される機会が少ないようです(文献2)。さらに,高齢者では死亡2週間前にいろいろな身体症状が強くなってくることが多く,特に症状がひどい場合や長く持続する場合は,週に2~3回程度の頻回な在宅訪問を行って症状のモニタリングを行うことが重要と言われています(文献1)。実際の在宅医療における高齢者のがんの痛みに対しては,適切にオピオイドを使用すること,適切に症状のモニタリングをすること,などによって,できるだけ不要な入院を回避することが重要なのではないかと考えています。

【文献】


1) Mercadante S, et al:Support Care Cancer. 2000; 8(2):123-30.
2) Mercadante S, et al:Drugs Aging. 2015;32(4):315-20.
3) Mercadante S, et al:J Pain Symptom Manage. 2013;45(2):298-304.
4) Mercadante S, et al:Support Care Cancer. 2016;24(4):1889-95.

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