多発性骨髄腫の治療成績はこの10年ほどで劇的に変化した。故渡辺淳一氏の小説『無影燈』の主人公,医師の直江庸介がその骨痛や前途に苦しんで自殺したように,その苦しむ様から多くの血液医が診たくない疾患と感じていたことであろう。
本疾患は高齢者に多く,貧血や腎障害,溶骨に伴う高カルシウム血症,骨折や骨痛などで苦しみを伴う造血器腫瘍である。しかし最近,プロテアソーム阻害薬のボルテゾミブ,免疫調節薬のサリドマイドやレナリドミドが登場し,65歳もしくは70歳以下の患者には自家造血幹細胞移植を併用することで,治療成績の改善が認められている。これは10年前の平均生存期間が3年弱であったのに対し,最近では5年を超えるに至っていることからも明らかである。また,ビスホスホネート製剤は溶骨性病変を劇的に改善させ,最近の疼痛コントロール技術の進歩は骨痛の緩和やQOLの改善に一役買っている。しかし,これらの薬剤をもってしてもまだ完治は困難である。中でも予後不良群ではほかの造血器腫瘍と同様に染色体・遺伝子異常が関与していることがわかり,これらの群に対する選択的な治療戦略の検討がなされている。
高齢社会が進むわが国では,20年前に比してこの病気の罹患率は2.4倍に増加しており,今後も増加することが予想されている。2015年には新規薬剤ポマリドミドやパノビノスタットがわが国でも認可され,抗CD38抗体や抗CS1抗体など,今後も複数の新規薬剤が導入予定である。依然として予後不良疾患ではあるが,過去と違い,患者に励みの言葉がかけられる時代を迎えたことは喜ばしい。