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骨髄低形成や形態異常を示さず,染色体異常も認めない汎血球減少の鑑別

 【骨髄不全が免疫病態によるものか,

それ以外の原因によるものかを明らかにする】

No.4793 (2016年03月05日発行) P.59

中尾眞二 (金沢大学医薬保健研究域医学系細胞移植学 (血液・呼吸器内科)教授)

登録日: 2016-03-05

最終更新日: 2016-11-10

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【Q】

汎血球減少を認めるものの骨髄低形成や形態異常を示さず,染色体異常も認めない患者に遭遇することがあります。再生不良性貧血の初期像なのか,低リスクの骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)なのかの鑑別について,金沢大学・中尾眞二先生のご教示をお願いします。
【質問者】
飯田真介:名古屋市立大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学分野教授

【A】

明らかな誘因がなく汎血球減少または2血球系統の減少をきたす疾患には,再生不良性貧血,MDS,発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH),急性前骨髄球性白血病,有毛細胞白血病,多発性骨髄腫などがあります。これらの多くは骨髄穿刺や骨髄生検を行うことによって鑑別できますが,最後に残るのは非重症再生不良性貧血と,形態異常の程度が軽いMDSです。
染色体異常や環状鉄芽球の増加などがあれば前白血病状態と診断することは容易ですが,これらがない場合,その患者の骨髄不全が造血幹細胞の異常によって起こっている前白血病状態か,あるいは免疫病態のような別の原因で起こっている良性の骨髄不全かを判別するのは常に難しい問題です。しかし,主治医は何らかの病名をつけざるをえないので,骨髄が低形成でなければ,ひとまずMDSのrefractory cytopenia with unilineage dysplasiaやidiopathic cytopenia of undetermined significanceなどの病名を苦しまぎれにつけることになります。
このような芽球増加,染色体異常,明らかな形態異常などを認めない骨髄不全患者をみた場合,重要なのは診断名を決めることではなく,その骨髄不全が免疫病態によるものか,あるいはそれ以外の原因によるものかを明らかにすることです。それは,免疫病態による骨髄不全の場合,治療開始が遅れれば遅れるほど,シクロスポリンや抗胸腺細胞グロブリンなどの免疫抑制療法(immunosuppressive therapy:IST)に対する反応性が悪くなるためです。
何の特殊検査も行うことなく,免疫病態の有無をおおよそ判定できるのは血球減少パターンの観察です。免疫病態による骨髄不全では他の血球に比べて血小板減少の程度が強くみられます。血小板数が正常近くに保たれていながら好中球減少や貧血がある場合には,最初から免疫病態を考える必要はありません。一方,そのような血小板減少優位の血球減少において,免疫病態の存在を強く示唆するのは,血漿トロンボポエチン(thrombopoietin:TPO)高値(320pg/mL以上)です。
ISTが奏効する骨髄不全では骨髄巨核球が相対的に減少しますが,これを定量的に評価することは困難でした。血漿TPO高値は骨髄巨核球の減少を反映する非常に良いマーカーです。血漿TPO高値例の中には薬剤やウイルス感染によるものも含まれますが,PNH形質の血球やHLA-Aアレル欠失白血球が検出される場合には確実に免疫病態が存在している(あるいは,かつて存在していた)と判断できます。それは,これらの異常形質血球を産生する造血幹細胞が骨髄に対する免疫学的な攻撃を免れて生き残ったと考えられるためです。
以上の診断マーカーの相互関係と病態との関係を図1に示します。ただし,これらが陽性であったとしても,発病からの経過期間が長い例ではISTが奏効しにくいので,染色体異常や芽球増加などの前白血病状態を示す異常のない骨髄不全をみた場合には,これらのマーカーを参考にして早期にISTを開始することが勧められます。

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