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悪性リンパ腫の外来化学療法

No.4768 (2015年09月12日発行) P.57

小松弘和 (名古屋市立大学大学院医学研究科化学療法部 准教授)

登録日: 2015-09-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

悪性リンパ腫に安全かつ有効な外来化学療法を行うための注意点について,名古屋市立大学・小松弘和先生のご教示をお願いします。
【質問者】
瀧澤 淳:新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科学分野准教授

【A】

癌化学療法中の患者におけるB型肝炎ウイルス(HBV)の再活性化が注目されています。劇症化する場合も少なくなく,特に,悪性リンパ腫の標準療法であるR-CHOP(rituximab,cyclophosphamide,doxorubicin,vincristine and prednisolone)療法は,リンパ系腫瘍で,かつリツキシマブとステロイドが併用され免疫抑制が強いため,HBV再活性化については高リスクです。
「B型肝炎治療ガイドライン」に基づき,治療開始前HBs抗原陽性の場合には,治療開始前から核酸アナログ(エンテカビル)の投与を開始します。治療前スクリーニングでHBs抗原陰性でも,HBs抗体,HBc抗原のいずれかでも陽性の場合は,治療中と治療終了後少なくとも12カ月は,1カ月に1回,HBV-DNA定量検査を行い,2.1log copies/mL以上になった時点で,直ちに核酸アナログの投与を開始します。核酸アナログ投与に際しては肝臓専門医にコンサルトします。
ホジキン病におけるABVD(adriamycin,bleomycin,vinblastine and dacarbazine)療法については,従来は血液毒性の回復まで治療の延期や血液毒性に応じた化学療法剤の減量が規定されていました。しかし,近年,血液毒性を考慮せずスケジュール通りに100%用量で完遂でき,G-CSF(granulocyte-colony stimulating factor)の予防投与も不要であることがわかっています(文献1)。そのため,根治治療としてdose intensityを低下させず,治療を予定通り遂行することが重要です。ただし,在宅での発熱時の抗菌薬投与の指示などが望まれます。
R-CHOP療法,ABVD療法はともに高催吐性レジメンであり,制吐対策としてステロイド,セロトニン受容体拮抗薬,NK1(neurokinin 1)受容体拮抗薬の3剤併用が推奨されています。
NK1受容体拮抗薬の静注製剤であるホスアプレピタントはアドリアマイシンと同じ末梢血管に連続投与すると,高率に血管炎を発症するため,内服製剤の使用などの留意が必要です(文献2)。アントラサイクリン系抗癌剤の血管外漏出は重症化することもあり,漏出時はデクスラゾキサンの静脈投与を検討します。漏出6時間以内の投与開始が必要なため,事前に薬剤の調達法を薬剤部と話し合います。デクスラゾキサン自体が起炎症性薬剤のため,本薬剤投与は漏出した反対側の腕から行い,できない場合は同側の漏出部位より体幹近くから投与する必要があります。デクスラゾキサン投与の適否は,重症化の予測を考え,皮膚科医とのコンサルトの上,決定することが望まれます。
現在,悪性リンパ腫を含め,外来化学療法は,化学療法専任の看護師,薬剤師のいる外来化学療法室で実施されます。上記のほかにも食欲低下,口内炎,便秘・下痢,末梢神経障害,発熱性好中球減少症,うつ・適応障害といった様々な副作用を,医師だけでなく,看護師,薬剤師をはじめとした医療スタッフの専門性を生かしたチーム医療によって未然に防ぐことが,安全で有効な化学療法につながります。医師はそのチームリーダーとして,外来化学療法のチーム育成を積極的に支援していく姿勢が必要です。

【文献】


1) Evens AM, et al:Br J Haematol. 2007;137(6): 545-52.
2) Sato Y, et al:J Cancer. 2014;5(5):390-7.

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