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明暦の凧と医療用ドローン [お茶の水だより]

No.4755 (2015年06月13日発行) P.9

登録日: 2015-06-13

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▼徳川幕府が出した禁止令には、思わず首を傾げたくなるものが数ある。筆頭は五代綱吉の「生類憐みの令」だろうが、四代家綱もなかなかだ。明暦2年(1656年)、彼は凧揚げを禁じた。理由は「大名行列の妨げになるから」。凧揚げが正月の風物詩となったのは三が日が禁止令の例外だったからとの説もある。
▼現代は明暦の頃に少し似ている。“糸なき凧”とも呼ぶべき無人小型飛行機、ドローンへの規制ムードの高まりという意味においてだ。官邸の屋上に1機が墜ちてから規制法案が練り上がるまでは早かった。
▼誰でも簡単に操作できるドローンがテロ行為などに使われるリスクは考慮すべきだが、規制の揚句に風物詩化するようなことになっては、医療にとっても大きな損失となるだろう。ドローンは新時代の医療ツールとしての可能性を秘めているからだ。
▼東大と慶応大のチームは、突然死の防止を目指し、AEDを運搬するドローンを開発しており、今年1月にはゴルフ場で飛行実験も行っている。兵庫県養父市は三井物産と組み、中間山地の患者を基幹病院の医師が映像システムで診察し、必要な薬をドローンで空輸するという新たな遠隔診療の形を提案した。このほか千葉県には、エピペンを載せて飛ぶドローンを研究する救急救命士がいる。
▼医療用ドローンの実用化は兆しこそ見えているが、現場導入への道程は厳しそうだ。薬や医療機器の運搬には数々の法律の規制が絡む。養父市の計画も国家戦略特区による規制緩和を前提としている。
▼明暦の凧揚げ規制以降も、庶民はめげずに凧に改良を重ね続けた。規制の壁は低くないが、ドローンは将来にわたり人命と健康を支えるツールとなりうるのは確かだ。医療導入に向けた現場の努力を応援したい。


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