【概要】日本医師会は6日、薬事承認を審議する際に薬価や患者数も議論する仕組みとし、適応拡大時に薬価を見直すことを提言した。4日に開かれた財務省の財政制度等審議会財政制度分科会で、ニボルマブなどの高額な薬剤が保険財政に与える影響が議論されたことを受けたもの。
財政制度分科会は4日、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の策定に向けて議論を開始。会合では、國頭英夫氏(日本赤十字社医療センター)がニボルマブ(販売名オプジーボ、用語解説)などの高額な薬剤が医療保険財政に与える影響の大きさを問題提起した。
■1人当たり年間3500万円
國頭氏は、ニボルマブの特徴として(1)有効例では生存期間が既存の薬剤に比べ大幅に延長、(2)有効な集団が治療前に特定できない、(3)有効例では、いつまで使うべきかが不明、(4)pseudoprogression(偽増悪)があり、無効例でもやめ時が分からない─などを挙げた。体重60kgの非小細胞がん患者に1年間継続して投与するには1人当たり約3500万円の医療費が必要となり、約5万人に投与した場合、医療費は年間約1兆7500億円に上るとの試算を提示。国家財政の「破滅の回避」には、薬価の設定方法の見直しや、無効例に対する使用の差し控え・中止などの対策が必要という考えを示した。
財政審の議論について、6日の定例会見で日医の中川俊男副会長(写真)は、薬事承認が決定した後に薬価を設定する現在の仕組みを問題視。薬事承認の審議で有効性・安全性だけではなく、薬価や対象患者数も同時に議論する仕組みにすべきと主張した。ニボルマブについては「効能・効果が追加され、市場が拡大した時に薬価を見直すべきだった」と指摘。効能・効果追加時の薬価見直しを提言した。高額なC型肝炎治療薬にも言及し、対象疾患が完治するこうした薬剤とニボルマブとを「同列には議論できない」と述べた。
横倉義武会長は、高額な薬剤の適正使用を各学会のガイドラインに盛り込むよう学会側に働きかけていく考えを示した。
●用語解説
【ニボルマブ】
PD-1とPD-1リガンドの結合を阻害する免疫チェックポイント阻害薬。がんによって不応答となっていたT 細胞を回復・活性化させ、抗腫瘍効果を示す。日本では2014年7 月に「根治切除不能な悪性黒色腫」の効能・効果で製造販売が承認され、昨年12月に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」への適応拡大が承認された。進行期肺扁平上皮がんに対するニボルマブとドセタキセルの生存率は図の通り。