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【識者の眼】「マイナポータルによるレセプト開示とPHR化の可能性」岡本悦司

No.5139 (2022年10月22日発行) P.54

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)

登録日: 2022-10-04

最終更新日: 2022-10-04

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「この画面をタイムマシンで30年前に送れないか」

マイナポータルで自己のレセプト情報を閲覧しながらそう思った。昨年よりマイナンバーカードの保険証化が進められており、調剤レセプトに含まれる薬剤情報が昨年9月分よりマイナポータルで閲覧可能となっている。そして今年9月11日より医科歯科レセプトに含まれる診療内容が閲覧可能となった。傷病名こそ含まれないものの、その内容はレセプト摘要欄のほとんど全情報といってよい。マイナンバーカードの保険証化は、マイナポイントだけでなく、レセプト情報を閲覧できるメリットももたらした。

歴史的に、わが国では患者にカルテやレセプトの閲覧権を認めてこなかった。1980年にOECDが個人情報8原則を勧告したにもかかわらず、個人情報保護法の制定まで23年もかかったのは、8原則のひとつ「個人参加(=閲覧、開示)の原則」がネックになったためであった。1990年代にカルテやレセプト開示をめぐる論争が激化した時も、医療側の意見は否定的だった。「レセプトを見せても患者が理解できるのか」「告知していない病名を見せると悪影響を及ぼす」等々。1997年にようやくレセプト開示を認める通知が発出されたが、あくまで「開示しても診療に影響がないことを医療機関の同意を得た上で」という条件付きだった。この通知は現在も有効であり、傷病名も含む全レセプトを閲覧するためには所定の手続きと手数料を納付する必要がある。

筆者は「将来、レセプトは電子化され、自分のPCで閲覧可能になるだろう」と予言していたが、それは当時の人々の想像を越えていた。インターネットはまだなく、ようやくパソコン通信が一部のマニアで使われ出した頃、レセプト電子化もごく少数の医療機関で試験的に始まったばかりで、オンラインではなくフロッピィディスクでの提出であった。「電子レセプトも審査は紙で行う」という約束により審査支払機関には夥しいプリンターが設置され、審査用紙レセプトをプリントアウトしていた……。

データヘルス工程表によると、2024年度には希望する医療機関については電子カルテもマイナポータルで閲覧可能になる予定である。マイナポータルは、個人がその医療記録を生涯にわたって保存・活用してゆくPHR(生涯健康記録)のための情報基盤となることが期待される。

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)[マイナンバーカードの保険証化]

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