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【識者の眼】「意識障害にみえる昏迷を生む3疾患」上田 諭

No.5139 (2022年10月22日発行) P.61

上田 諭 (東京さつきホスピタル)

登録日: 2022-10-03

最終更新日: 2022-10-03

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急に反応が悪くなり、動かず話さなくなったら、まず疑うのは意識障害であるが、頭部画像、血液・髄液、脳波など諸検査をしても、何の異常もみつからないケースがある。意識障害ではなく、精神疾患として無言無動の状態「昏迷」である。原因となる精神疾患から3つに分けられ、治療法が異なる。

統合失調症によるもの、うつ病によるもの、解離症によるもの、の3つである。このうち、前2者は緊急の治療を要する。放置されれば、数週間以上そのまま無言無動が続く可能性が高く、低栄養や合併症により致命的になるからである。点滴または経鼻胃管による薬物療法、電気けいれん療法などを早急に施行する必要がある。一方、解離症によるものは、半日から1日経過すると、自然に昏迷が解ける(動け、話せるようになる)ことが多い。通常は、脱水にならないよう注意して経過をみれば重篤なことにはならない。

どうして昏迷になるのか。統合失調症では、精神病状態の悪化で思考の混乱が極度になって、行動も会話もできなくなってしまう。うつ病でも、精神運動制止と呼ばれる意欲・活動性低下状態が悪化して、意思発動性がなくなってしまうのだと考えられている。いずれも、昏迷になったのは生活上のつらい理由があったからではない。日常生活は全く無関係ではないが、主たる要因は脳疾患の悪化・進行である。

一方、解離症(かつてはヒステリーと呼んだ)による昏迷には、生活上のきっかけや原因がある。単につらく悲しい出来事なら、ふさぎ込み涙を流すだけですむかもしれない。それをはるかに上回るようなつらい出来事、耐えられないほどの心の葛藤に遭遇したとき、体も心も動かなくなる解離症性の昏迷が起きることがある。若い女性に生じることが多い。

前の2つが脳活動の悪化なら、これは心理性と呼べる。心理は外界の状況に常に左右されるのが特徴である。何時間も続いた解離性昏迷が、誰かの呼びかけ一つで一瞬で解ける(元の状態に戻る)ことがあるが、これは解離性にしか起きない。

上田 諭(東京さつきホスピタル)[精神科治療]

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