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特集:貧血の鑑別と専門医への紹介

No.5134 (2022年09月17日発行) P.18

鈴木隆浩 (北里大学医学部血液内科学主任教授)

登録日: 2022-09-16

最終更新日: 2022-09-14

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1993年東京大学卒。血液内科の道を選び,現在は骨髄異形成症候群などの造血障害疾患と鉄代謝の研究を行っている。なり手の少ない血液内科医を増やすため,医局員とともに目下奮闘中。

1 貧血とは何か?
「貧血」とは,末梢血の赤血球成分の減少を示す病態名である。
貧血は赤血球数,ヘモグロビン(Hb)値,ヘマトクリット(Ht)値の低下で定義されるが,Hb値を第一の指標とするのが一般的である。
貧血には必ず,原因となる疾患が存在する。貧血の診療では,原因疾患を同定し,治療することが必要である。

2 貧血症例への初期対応─緊急性の判断
貧血の診療では,まず緊急性を判断する。
血算検査では,血液像(目視)を確認する。
貧血および他血球の状態を確認し,血球異常に伴う喫緊の生命リスクを判断することが重要である。
高度貧血症例は,直ちに入院することが望ましい。出血が明確であれば,各臓器専門医に紹介する。出血が明確でなければ,血液専門医に紹介する。
高度貧血以外でも,白血球・血小板に異常があり,生命リスクが想定される数値である場合は,血液専門医に紹介する。

3 貧血の鑑別
貧血の鑑別には,Step 1:平均赤血球容積(MCV)の確認,Step 2:網赤血球数の確認,が有用である。

(1)Step 1:MCVの確認

 ❶ 小球性貧血(MCV低値)
 ・鉄欠乏性貧血と,慢性疾患に伴う貧血(ACD)の鑑別が重要である。
 ・鉄欠乏性貧血はフェリチン低値で診断する。血清鉄低値だけでは鉄欠乏性貧血とACDは見わけられない。
 ・赤血球の減少を伴わない小球性貧血では,サラセミアも疑う。
 ・鉄欠乏性貧血の場合,出血の有無についても確認する。
 ❷ 大球性貧血(MCV高値)
 ・ビタミンB12と葉酸値を必ず測定する。
 ・正球性貧血を呈するとされる疾患も,実は軽度の大球性貧血(MCV 100~115fL程度)を示すことが多い。このため,ビタミンB12,葉酸欠乏が否定される場合は,正球性貧血の鑑別を行う。
 ❸ 正球性貧血(MCV正常値)
 ・網赤血球数を確認する(Step 2へ)。

(2)Step 2:網赤血球数の確認

 網赤血球数増加の場合は,溶血か出血が考えられる。
 溶血の診断には,LDH,間接ビリルビン,ハプトグロビンの測定が有用である。また,Coombs試験を必ず行う。検査上溶血が疑われる場合には血液専門医に紹介する。
 網赤血球数増加が認められない場合は,骨髄での産生低下が考えられる。腎性貧血が疑われる場合を除いて,多くの場合,骨髄検査が必要になるため血液専門医へ紹介する。

伝えたいこと…
貧血は一般診療で遭遇する頻度の高い症候であるが,必ず原因があるため,その原因をつきとめ,必要な治療を行うことが肝要である。
貧血の原因の多くは出血,造血器疾患,腎疾患であり,血液内科をはじめとする専門診療科で治療を行うことが多いが,診断の入り口として一般医家の果たす役割は重要である。一般診療では,スクリーニング検査を行うことである程度の診断の絞り込みを行い,専門治療が必要な症例は適切に専門診療科に紹介し,一般診療で診療可能な症例(たとえば「欠乏性貧血」)は一般診療で治療を継続することが求められている。
本稿では,貧血症例を診た際に一般診療の範囲内で行うべき鑑別の進め方と,専門医への紹介について解説したい。

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