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【一週一話】DV加害者の脱暴力への臨床実践

No.4771 (2015年10月03日発行) P.51

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-10

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  • 虐待とDVのある家族の父親を対象にした「男親塾」というグループワークを実施している。DV,虐待,ストーキング,いじめ,ハラスメントなどを扱う関連諸法には加害者臨床へと導く制度がないので,自主的な参加を前提にして児童相談所と連携して展開している。そのグループワークでこんなことが語られた。

    38歳の会社勤めの2児の父親。ある日の夕飯の出来事だった。妻がため息交じりに「今月苦しいのよね」と話しかけたところ,夫は突然怒りだし,妻を平手打ちしたという。その男性はグループワークで反省していたが,そのときの妻の発言は,「あんたの稼ぎが少ない」と聞こえたとのことだった。彼は常日頃から収入が減っていることを気にしていたという。ちょうどリーマンショック後で残業が少なくなり,帰宅が多少は早まり,夫婦で向きあう時間が増えことも不幸だった。

    本来は,やりくりをどうしようとか,妻もアルバイトに行けないのか,貯金を少し取り崩そうなどと会話を続ければいいことだ。ましてや妻が夫を非難しているわけでもない。しかし,彼には非難しているようにしか聞こえなかったという。妻からすれば暴力を振るわれる理由がわからない。出来事の解釈や意味づけの,つまり認知のずれがある。問題解決として暴力を選択し,怒りの感情をもとに行動化するという循環がある。ここでの対人暴力は,怒り,恨み,嫉み,鬱憤,甘え,依存をもとにした親密な関係性における暴力である。

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