株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)[私の治療]

No.4987 (2019年11月23日発行) P.54

久保政之 (奈良県立医科大学輸血部)

松本雅則 (奈良県立医科大学輸血部教授)

登録日: 2019-11-22

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)は,全身の微小血管に血小板血栓が形成され発症する致死的な疾患である。TTPではADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)活性低下により超高分子量von Willebrand因子重合体(UL-VWFM)が切断されずに血液中に残存し,高ずり応力の発生する微小血管で活性化され,血小板血栓を形成する。この血小板血栓が,腎臓や脳などの流入血管に形成され,臓器障害が生じる。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    血小板減少,溶血性貧血,腎機能障害,発熱,精神神経症状が古典的5徴候としてよく知られている。しかし,実際には5徴候がすべてそろう症例は,後天性TTP全体の10%未満と非常に少ないことが報告されており,その中でも血小板減少と溶血性貧血が診断に重要であることが認識されている。また,虚血に伴う臓器障害として,腹痛や心筋障害がみられることがある。

    【検査所見】

    血液検査にて血小板減少,貧血を認める。貧血は赤血球の機械的破壊により生じる細血管障害性溶血性貧血である。破砕赤血球の出現,間接ビリルビン,LDH,網状赤血球の上昇,ハプトグロビンの低下がみられる。原因不明の血小板減少と溶血性貧血を認めた場合にはTTPを疑い,ADAMTS13活性を測定する。ADAMTS13活性が10%未満に著減していればTTPと診断し,抗ADAMTS13自己抗体が陽性であれば後天性TTPと診断する。TTPは全身性エリテマトーデスなどの膠原病やチクロピジンなどの薬剤に関連して発症することがあり,その場合には後天性二次性TTPと診断する。基礎疾患を認めない場合には後天性原発性TTPと診断する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    後天性TTPにおいて,科学的根拠が示されている治療法は血漿交換のみである。TTPは急性期に血栓症(脳梗塞,心筋梗塞など)を発症する危険があり,無治療の場合は90%以上が死亡するきわめて予後不良な疾患であったが,血漿交換が導入され約80%の生存率が得られるようになった。血漿交換は,①ADAMTS13の補充,②抗ADAMTS13自己抗体の除去,③UL-VWFMの除去,といった機序により治療効果が期待される。

    血漿交換開始の遅れが予後を悪化させるとの報告があることから,後天性TTPを疑った場合には,できるだけ早期に血漿交換を開始する。ADAMTS13活性の結果が判明するまでには現状では数日を要することから,その結果を待たずに治療を開始する必要がある。また,自己抗体の産生抑制を目的としてステロイド療法を血漿交換と並行して実施する。二次性TTPで薬剤性の場合は原因薬剤を中止し,基礎疾患がある場合には,その治療を継続する。

    【注意】

    高度な貧血に対しては,心疾患のない患者ではヘモグロビン値7.0g/dL未満を目安として赤血球輸血が推奨される。心疾患を有する患者では8.0g/dL未満を目安とする。一方で,血小板輸血は血栓症を増悪させる危険性があるため,致死的な出血がある場合を除いて,予防的使用は禁忌と考えられる。

    残り967文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top