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特集:外来での悪性リンパ腫診断・治療Q&A

No.4985 (2019年11月09日発行) P.19

監修: 山本一仁 (愛知県がんセンター血液・細胞療法部部長)

鈴木律朗 (島根大学医学部附属病院腫瘍・血液内科准教授)

瀧澤 淳 (新潟大学医歯学総合病院血液内科病院教授)

加藤省一 (愛知県がんセンター遺伝子病理診断部医長)

加藤春美 (愛知県がんセンター血液・細胞療法部医長)

大間知 謙 (東海大学医学部内科学系血液・腫瘍内科講師)

丸山 大 (国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科病棟医長)

齋藤 慧 (東北大学病院血液免疫科)

福原規子 (東北大学病院血液免疫科講師)

登録日: 2019-11-11

最終更新日: 2019-11-06

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Q1 悪性リンパ腫の発生頻度はどのくらいか?

A1 わが国の悪性リンパ腫の発生頻度は,2006年に成立した「がん対策基本法」,2013年に成立した「がん登録推進法」に基づいて国立がん研究センターが実施している「全国がん登録」のデータから算出可能である。同センターの「がん情報サービス」のウェブサイトに「がん登録・統計」のページがあり1),ここから集計データがExcelファイルでダウンロード可能である。最新の全国集計データは2015年発症分が公開されており(2019年1月更新,2019年6月10日アクセス),年間約3万人の発症がある(男性:1万6419人,女性:1万3684人)1)。ちなみに3万人の大台を超えたのは2015年が初めてで,男女とも前年より増加している。人口10万人当たりの年齢調整年間悪性リンパ腫発症割合は23.7人で,男性26.6人,女性21.0人であることから,発症率も男性が高い。統計を取り始めた1975年の年齢調整発症割合は人口10万人当たり3.6人であることから,この40年で6.6倍に増えている。全悪性腫瘍の伸び率が3.9倍,白血病が2.2倍である点からも,悪性リンパ腫の発生頻度増加は際立ったものがある。

【文献】

1) 国立がん研究センターがん情報サービス:がん登録・統計. [https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html]

Q2 欧米人と比べて日本人に多いリンパ腫病型と 診断のポイントは何か?

A2 悪性リンパ腫の病型は,最新の「WHO分類改訂第4版」(2017年)において98病型に増加した1)。このうち,欧米人と比べて日本人に多いリンパ腫病型は,節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型(extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type:ENKL),アグレッシブNK細胞白血病(aggressive NK-cell leukemia:ANKL),成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma:ATL)の3病型である。

ENKLの原発臓器で最も多いのは鼻および鼻腔周囲で,ついで皮膚,消化管である2)。いずれの臓器の原発であっても診断には生検が必要で,病理組織学的に診断がなされる。特に鼻/鼻腔周囲原発例では広範な壊死を伴う場合があり,一度の生検で診断がつかない場合は繰り返して生検することが必要である。病理診断には免疫染色が必須で,細胞質CD3を反映するCD3が陽性となるほか,CD56,TIA1,granzyme Bなどのマーカーが種々の割合で陽性になる。このほかに,エプスタイン・バール・ウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)の存在をEBER in situ hybridizationで証明する必要がある。CD56,TIA1,granzyme Bなどは陰性の場合もあるが,EBERは陽性例のみをENKLとする。EBVの存在証明は末梢血でEBV-DNAを検出することでも可能であるが,腫瘍量が少ない場合は陰性のこともある。

ANKLの典型例では白血球増多・骨髄での腫瘍細胞増加をきたすため,血液検査もしくは骨髄検査で診断可能である3)。白血病細胞は典型的には顆粒大リンパ球(large granular lymphocyte:LGL)の形態を呈するが,非典型例もありリンパ球が増えている場合には注意する必要がある4)

表面マーカーなどの免疫学的表現型を検査し,NK細胞マーカーが陽性でT,B細胞マーカーが陰性であることから診断する。CD16,CD56,CD2,CD7が陽性で,sCD3,CD20は陰性である。EBVは基本的に陽性であるが,15%ほど陰性例が存在する。CD8は時に陽性で,CD5は大部分が陰性である。ANKLは発熱・盗汗・体重減少といった全身症状(B症状)を伴うことも多く,病勢の進行は急速である。進行が緩徐な慢性NK細胞増多症(CNKL)が鑑別対象となるが,CNKLはEBV陰性である。白血球増多が前面に出ず,肝障害や肝脾腫で発症する例も少なくないので,注意が必要である。

ATLはヒトT細胞親和性ウイルスⅠ型(human T-cell leukemia 3 virus type 1:HTLV-1)が陽性となるT細胞腫瘍で,急性型,リンパ腫型,慢性型,くすぶり型の4型にわけられる。細胞学的および病理診断に加え,HTLV-1抗体が陽性であることが診断に必要である5)。ただし,抗体のみが陽性となるHTLV-1キャリアがHTLV-1陰性のT細胞腫瘍を発症することもあるため,厳密にはサザンブロッティングによる腫瘍細胞中のHTLV-1ゲノムの存在を証明する必要がある。しかしこの検査は保険未収載で,早期の保険承認が望まれる。腫瘍細胞はCD3,CD4,CD5,CD25が陽性となり,CD7は多くの場合陰性である。

このようにCD3陽性CD7陰性となる異常T細胞の存在が診断のきっかけになる場合もある。一部はCD4の代わりにCD8が陽性となるタイプもあるほか,CD4+,CD8+のdouble positive例もある。

【文献】

1) Swerdlow SH, et al:WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. 4th ed. World Health Organization. 2017.

2) Suzuki R:Semin Hematol. 2014;51(1):42-51.

3) Suzuki R, et al:Leukemia. 2004;18(4):763-70.

4) Ishida F, et al:Cancer Sci. 2012;103(6):1079-83.

5) Shimoyama M:Br J Haematol. 1991;79(3):428-37.


鈴木律朗(島根大学医学部附属病院腫瘍・血液内科准教授)

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