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鉄欠乏性貧血[私の治療]

No.4970 (2019年07月27日発行) P.39

鈴木隆浩 (北里大学医学部血液内科学教授)

登録日: 2019-07-27

最終更新日: 2019-07-24

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  • 鉄欠乏性貧血は体内の総鉄量減少に伴って発生する貧血であり,貧血疾患の中で最も頻度が高い。類似の所見を呈する病態に,鉄の利用障害によって発生する「慢性疾患に伴う貧血」があり,両者をしっかり鑑別することが重要である。
    鉄欠乏性貧血には必ず鉄を喪失する原因がある。したがって,鉄欠乏性貧血を診断した際は,貧血を引き起こした原疾患の精査を忘れてはならない。

    ▶診断のポイント

    鉄欠乏性貧血では通常,小球性低色素性貧血が認められる。血清鉄低下,不飽和鉄結合能の増加,血清フェリチン値の低下が特徴的だが,フェリチン値の低下が診断には必須である(鉄欠乏の指標は血清フェリチン値12ng/mL未満とされている1))。血清鉄の低下のみで鉄欠乏性貧血を診断してはいけない。慢性疾患に伴う貧血の場合,小球性低色素性貧血と血清鉄の低下が認められるが,血清フェリチン値は低下しないことで鑑別される。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    鉄欠乏の補正と鉄欠乏の原因への対応が基本である。鉄欠乏の補正は,食事指導と鉄剤処方で行う。食餌鉄はヘム鉄と非ヘム鉄(ほとんどが3価鉄)の2種類で存在し,ヘム鉄のほうが吸収効率に優れる。このため,可能であればヘム鉄を多く含む動物系食物(レバーや肉類,赤身の魚やシジミなどの貝類)の摂取を推奨し,そのほかにホウレン草や小松菜,ヒジキなど非ヘム鉄を多く含む植物系食物摂取を心がけるよう指導する。

    鉄剤は経口投与が原則である。静注鉄剤は消化器病変など経口鉄剤の使用が不適切である場合や,副作用で経口薬が服用できない場合,急速な鉄補充を必要とする場合に考慮される。経口鉄剤は何を用いてもよいが(治療の実際「一手目」に記載),どの薬剤でも悪心や便秘,下痢などの副作用を伴うことがある。これらの副作用は1~2週間程度で軽減することが多いが,それ以上持続して治療継続の障害になることも時に経験される。その場合は薬剤の変更や内服時刻を食後から就寝前に変更することなどで対応する。また,緑茶や紅茶に含まれるタンニンは鉄と複合体をつくることで吸収を低下させるが,鉄剤には十分な鉄が含まれており,緑茶で徐放性鉄剤を服用しても貧血改善(治療効果)には影響しないことが示されているため,お茶についてそれほど神経質になる必要はない。また,ビタミンCは鉄を還元することで吸収効率を増大させ,食餌鉄の吸収増加には有用と考えられるが,経口鉄剤はほとんどが還元鉄(2価鉄)であるため,必ずしも併用する必要はないと考えられる。なお,胃液(胃酸)は食餌鉄の吸収に必須の要素である。したがって,胃切除後や萎縮性胃炎,制酸薬併用時など,胃酸減少時には鉄欠乏が発生しやすいことに注意が必要である。

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